「あるべきだけど作られていない映画を作る」…ドキュメンタリー「アイヌプリ」の福永壮志監督
今の日本社会や世界情勢を見渡しても、課題が多いと感じるという。日々のニュースに触れて憤りを感じることも多いと明かす。「それに対してのレスポンスが自分の中では映画を作ること。そういう発信は、これからも何かしらの形で続けていきたい」
信じているから続けられる
今年2月、ハンガリーの巨匠タル・ベーラが福島県浜通りでの映画制作ワークショップの指揮を執った。そこでタル・ベーラの指導を受けながら短編映画を撮った7人の若手映画作家の中に、福永監督もいた。現地では「(タル・ベーラ監督から)日本で学べる機会が来て抑えきれずに申請した。初心に戻って、映画を通して自分に何ができるか見つめ直したい」と語っていた。
今秋開催された東京国際映画祭では、「アイヌプリ」のジャパンプレミア、そして、福島でのワークショップで7人が撮った短編の上映があった。
福永監督が福島でつくった短編「Tales of Cows」は、ある紙芝居を上演する女性2人をとらえた作品。その紙芝居は、原発事故後、福島県浪江町に取り残された牛たちに起きたことを牛の視点から伝えるもの。牛の言葉、それを伝える声……。見れば、ぎゅっと心をつかまれる。
「題材を選んだのは自分ですが、セッティングとか、どう撮るかということは、かなりベーラのアドバイスもあった上で。本当に、先生の指導のもと、宿題頑張りましたという感じです」と振り返る。命の手ざわりが鮮烈に心に残る福永作品の特質が、ぎゅっと濃縮された映画のようにも思える。
今回の取材で福永監督は、「一本一本、その時できる最善の形で作って、それが興行や批評に結びつかなかったとしても、誰かの心のどこかに残る、きっと何かになると信じているから続けられる」とも話していた。そういう思いで、この人は映画を作っている。
◇「アイヌプリ」=2024年/上映時間:86分/配給:NAKACHIKA PICTURES=公開中(東京・渋谷ユーロスペースほか全国順次公開)