若い頃の仕事の相棒をもう一度! 納車まで4年も待った日産パトロール! 【喜多方レトロ横丁 レトロモーターShow】
とかく関東地方の旧車イベントばかりがクローズアップされがちだが、地方のイベントには関東近辺では見る機会が少ないレア車に巡り合える確率が高い。特に東北近辺だと雪のない時期にしか引っ張り出さないオーナーも多く、今回のような絶滅危惧種であるパトロールを拝見する機会に恵まれた。 PHOTO&REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru) 【写真】日産パトロールの詳細を見る 日産が本格クロスカントリーモデルを復活させると話題になっている。以前はサファリやテラノといったモデルを国内でも販売していたが、現在は海外向けにしか生産していない。だからこそ国内モデルとして本格クロスカントリー4WDが復活するのはファン待望であろうし、大きなインパクトになることだろう。では日産にパトロールというモデルがあったことを覚えているだろうか。実に1951年、警察予備隊への納入を目指して開発されたのが初代パトロールだった。 当初の目的は三菱がライセンス生産していたジープに奪われてしまうわけだが、パトロールは警察署や消防署などへの納入により生産を続けることになる。ほぼ民生型がないパトロールは1960年にモデルチェンジして2代目になる。この60型パトロールはその後20年間も生産され続けることになり、広く消防車として浸透するとともに民生用としての需要も喚起する。基本は4WDモデルだが消防向けには後輪駆動のFRモデルも存在し、ボディもホロ型以外にハードトップやライトバン、ピックアップがラインナップされていた。 1980年にフルモデルチェンジが実施され、車名をサファリに変更したことでパトロールの歴史は国内で終了する。海外へは継続してパトロールの名称が使われたが、国内ではサファリが一般ユーザーにも好評だったことからパトロールの名前は忘れ去られていく。さらに残存していた多くの個体が途上国などへ輸出されてしまったため、パトロール自体を見かけることが稀になってしまった。 ところが福島県喜多方市で開催された夏祭りである「喜多方レトロ横丁」でパトロールの姿を見つけた。迷わずオーナーと思しき人へ声をかけたのは言うまでもない。もしや若い頃に消防団員だったのかと想像を膨らませていると、戻ってきた答えは意外なものだった。現在69歳になるオーナーの鈴木茂さんは、若い頃に電気工事の仕事をされていた。その時に仕事用のクルマとして用いられていたのがパトロールだったというのだ。 電気工事の仕事をされていたのは、おそらく70年代から80年代のことだろう。その当時はまだ新車でパトロールが買えたわけで、舗装路だけでなく悪路が続く現場も想定して選ばれたのだろう。だから鈴木さんとしても仕事の頼れる相棒ではあるが、パトロール自体に思い入れや特別な感情があったわけではなかった。 さらに言えば鈴木さんはクルマを趣味にしていたわけでもない。クルマは生活のアシであり便利な道具以上の何者でもなかった。ところが転機になったのは50代の時。今から16年前なので当時53歳になった鈴木さん。50代に突入すると不思議なもので人生の先を考え始めるもの。これから先、何年生きられるのか、老後でも楽しめる趣味とはなんだろうか。フトそんなことを考えるようになるもの。すると鈴木さん、若い頃に仕事の相棒だったパトロールのことを思い出してしまった。 仕事で乗っていたとはいえ、当時は若く人生は輝きに満ちていたことだろう。楽しかったことや辛かったこと、日々の生活でパトロールと過ごした時間はかけがえのない思い出。するともう一度乗りたいと思い始め、それはいつしか絶対に乗るという決意にまで固まってしまった。ところが相手が悪い。パトロールは前述のように国内に残る個体が猛烈な勢いで減り、もはや数えるくらいしか残っていない。探しても見つかることなどごく僅か。ところが鈴木さんの執念だろうか、インターネットで販売車両があることを見つけた。 鈴木さんが住んでいるのは山形県だが、販売されていたパトロールは遠く広島県の中古車販売業車。主にジムニーをメインに扱っているショップなので、珍しい4WDとしてパトロールを仕入れたのだろう。迷わずオーダーした鈴木さんだが、ここからが大変だった。待てど暮らせどクルマが届かない。ショップが仕入れた段階でまともに走れる状態ではなく、修理するために時間がかかってしまったのだ。国内では補修部品すら見つからない状況で、なんと4年も待つことになった。 待望の納車となったわけだが、そこからも手入れや工夫を繰り返すことで12年間乗り続けている。ボロボロだったシートを取り外して他車純正シートと入れ替えたり、ホロ自体を新調したり、アルミホイールを探してみたりと楽しみながら維持している。特にランドクルーザー・プラド用のホイールが合うことを発見したが、ハブ径が合わない。そこでハブ周辺を削りパトロールに合うよう加工した。だが旧車らしいトラブルとは無縁。鈴木さん曰く「壊れるところがないから苦労はない」とのこと。そもそも頑丈に作られたパトロールだから、トラブルになることも少ないのだろう。パトロールのことを語る鈴木さんは、どこか溌剌として目が輝いている。若い頃を思い出す趣味は健康にも良いのではないだろうか。
増田満
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