「うちの社員はすごい!」 “仕方なく”家業を継いだ男性に起きた心境の変化 大阪府八尾市の木村石鹸
ですから、親父の言う「うちの社員はすごいんやぞ」という言葉が、僕にはものすごく空々しく聞こえたんですね。どう考えてもただの虚言のようにしか思えませんでした。 若いベンチャー企業である自分たちは、マーケティングをしっかり学び、経営についても最新の経営理論を参考にして、ある種、アカデミックに理論的に正しい経営のあり方を模索している。 それに引き換え、家業は、どう見ても職人の世界だし、「ええもん作ったら売れんねん!」的な時代錯誤の会社だというような偏見を抱いていたんです。
■家業を継ぐことになったきっかけ 親父が「うちの社員はすごいんやぞ」と繰り返し言っていたあのころから、いったいどれほどの月日が経ったでしょうか。 僕は今、僕自身が忌み嫌った家業をしています。 きっかけは2度にわたる「事業承継の失敗」です。 一時、親父は僕が継ぐのを諦めて、親族外の事業承継を試みました。しかし、うまくいきませんでした。あるベテラン社員は当時を「暗黒時代」と呼びます。 失敗を厳しく叱責し、何かあれば責任を取れと迫る。そんな経営スタイルに社員は疲弊して、「このままでは全員辞めます」と親父に直談判をしたそうです。
2度目は僕が紹介した人でした。化粧品会社の役員や管理部門を渡り歩いてきた方が、自分のキャリアの最後に、小さい同族会社や親族だけで経営しているような会社を、外部事業承継をしても継続していける会社にしたいとおっしゃっていて、これは渡りに船だと思い、親父と引き合わせたところ意気投合。 僕はその時、社長ではなく執行役員という立場でしたが、経営全般をお願いすることにしました。 しかしこれも2年で頓挫。新しい能力評価制度の導入で、何人かの社員が詰められて会社にいられなくなってしまったり、裏で親父や僕のことをこき下ろし、木村石鹸から追い出してしまおうと目論んでいたり、そんなことが発覚したのです。