「アクセル」を踏むと何が起きる? キャブ時代から電制スロットル時代まで
ドライバーがクルマを走らせるのに不可欠な「アクセルペダル」。「キャブレターの時代」から「排ガス規制の時代」「エコカー時代」を経て、アクセルが果たす役割は、単にスピード調整だけではなく多種多様になっています。アクセルを踏むという操作で、私たちはいったい何を制御しているのでしょうか。モータージャーナリストの池田直渡氏が解説します。 【図】「良いガス、良い圧縮、良い火花」ガソリンエンジンの最新技術が面白くなる“魔法の言葉”
■キャブレターの時代
アクセルを踏むとクルマは加速する。何を馬鹿なことをと言わないでほしい。その裏側で密かに行われている電子機器と機械の人知れぬ格闘について、われわれはなかなか知ることができない。今回はそんな話をしてみたいと思う。 例によって古い話から始めよう。まず「キャブレター」からだ。キャブレターはほとんど自動車が生まれた頃、つまり19世紀の終わりに誕生し、1980年代に全盛期を終える。しかし、モーターサイクルなどでは2000年代に入っても使われていた非常に息の長い燃料供給装置である。燃料を供給する、つまりキャブレターとは燃料を霧化して空気と混ぜる仕事をする部品だ。その動作はエンジンの負圧に依存している。 動いているエンジンは吸気に着目すると「吸い込みポンプ」のようなものだ。ピストンが下がることで負圧が発生して空気を吸い込む。もう少し詳しく書けば、この瞬間、シリンダーヘッドの排気弁は閉じ、吸気弁は開いている。その結果、外気と繋がっているのは吸気管だけなので、吸気管に負圧が伝わって空気を吸い込む。この吸気管の途中にアクセルペダルで開閉する弁を設けて、適宜塞いで空気の取り込み量を加減する。この調節弁こそが「スロットルバルブ」の役割だった。キャブレターの時代、アクセルが決めているのは空気の吸い込み量だったのである。 キャブレターは“霧吹き”だから、この吸気管の負圧を利用して霧を吹き、燃料を空気に混ぜる。ガソリンを混ぜる量の調整は、空気の流れがある程度、自動的に加減してくれる。 キャブレターの方でガソリンの量を決める唯一の仕組みは「ジェット」という燃料経路の細い管で、この管の内径がガソリンの流路抵抗として流量を制限していた。空気に対して燃料を増やしたければ、ジェットを径の大きいものと交換するのだ。厳密なことを言い出せば、その流路には運転状況に応じたいくつかのステップがあるのだが、原理的にはジェットでガソリンの流路径を固定して、運転状況に合わせた流量の調整は穴を通過する燃料の流速で行う仕組みだ。 要するにアクセルで決めた空気量に連動して、負圧で燃料の量を決める。その際、流量の増減を決める因子は吸気管負圧の強さだけ。キャブレターはそういう単純な機械に過ぎなかった。