「アクセル」を踏むと何が起きる? キャブ時代から電制スロットル時代まで
■多機能化の時代
キャブレターの時代は吸気口の面積を決めるという単純な役割だったアクセルペダルは、電子制御の時代を経て、2000年代に入ると様々な要素を調整する複雑な機構に進歩した。その結果、従来のようにアクセルからワイヤー(この場合鉄のひも)を経由してスロットルバルブを動かす仕組みではなくなった。 アクセルペダルの踏み込み量や速度、エンジンやトランスミッションの様々な情報の全てをセンサーで検知して、ECU(エンジンコントロールユニット)が演算処理するようになったのである。これを「バイ・ワイヤー」と呼ぶ。こっちの場合のワイヤーは電気配線を意味し、物理的なひもで動かすのではなく、センサーの信号をECUに電気的に送り、様々な演算結果に基づいてアクチュエター(そのほとんどはモーター)が作動する仕組みになった。 こうなると制御できる範囲がもっと増える。いくつか例を挙げてみよう。例えばターボのレスポンスの改善だ。例えばアイドリングストップから青信号で発信する時、ターボのタービンは当然止まっている。ところが動き出しでは高トルクが求められるから、すぐにブーストをかけたい。エンジン始動と共に一気にターボを加速したいわけだ。その場合、エンジン始動と同時に瞬間的にスロットルを全開にする。エンジン回転をモニタリングしながらスロットルを調整しているので、本当にエンジンがレッドゾーンまで吹き上がるわけではない。ドライバーがペダル操作していたのでは不可能なくらいの短時間だけ全開にして、排気ガスの量を短時間で増やすのだ。 当然これは走行中、例えばタイトコーナーで減速してエンジン回転が落ちた後の立ち上がりなどにも利用できる。ドライバーがアクセルを踏むという操作を「加速要求」と判断して、加速のために最も効率の上がるシークエンスを裏側で実行しているわけだ。「言われた通りにやる」から「言われたことの意味を考えてやる」への変換だ。 あるいは、エンジンマウントの手助けも行う。市販車の場合、エンジンはシャシーに剛結されているわけではない。そんなことをしたらエンジンの振動が全部シャシーに伝わってうるさくてかなわない。快適性の必要ないレーシングカーはレスポンスを優先してエンジンとシャシーはねじ止めである。フェラーリで言えばF50はそうなっている。一度だけ助手席に乗ったことがあるが、車内に轟音が鳴り響き、とてもではないが快適とは程遠い乗り物だった。 そんなわけで、エンジンとシャシーの間はゴムを挟んで繋がっており、様々なショックを和らげたり、音や振動を吸収したりするのだ。しかし、そうした静粛性と引き換えに、そこでもタイムラグが生じる。エンジンが駆動輪を回そうとした瞬間、ゴムマウントのたわみ分、エンジンの方が動いてしまう。作用反作用の原理である。そのせいで走り出した瞬間はゴムのたわみ分だけ駆動力が減り、そのたわみがいっぱいになると今度はバウンドして押し返すせいで、ドライバーが思った以上の駆動力でタイヤを回そうとする。人間は比例的に増加するものの先行きを予測することはできるが、このように最初はマイナス、後でプラスというような変化が起きると混乱する。 例えばコインパーキングで「昇降板を踏み越えたらすぐ止まりたい」というような時に、踏み越えようとするとゴム製のエンジンマウントのたわみによって力が逃げて、一時的にタイヤに伝わる力が減衰する。あわててアクセルを踏み足した頃にマウントがたわんだバウンド分が帰ってきて、急にトルクが増して昇降板を一気に踏み越え、「慌てて急ブレーキ」というようなことが起きる。これはエンジンマウントの出来が悪いことが原因であるケースが多い。もちろんエンジンに低速トルクが出ていなかったり、ギヤ比が最適でなかったりする場合もあるにはあるが、多くはマウントの責任である。