「アクセル」を踏むと何が起きる? キャブ時代から電制スロットル時代まで
エンジンには様々な運転状態があるので、負圧任せでは機能しない場面もある。上り坂や低回転からの急発進など「スロットルバルブは全開だが、エンジンの回転数が低く、吸気量が少ない」状況だと、負圧が足りなくなって、力が欲しい場面なのにガソリンが少ししか吸い出されない。それではまずいので、キャブレターによって様々な解決策が用意された。 SUキャブでは、負圧とばねのバランスで作動するシャッターを設け、低回転高負荷の時はそのシャッターが絞られてガソリンを吸い出すために必要な負圧を作り出していたし、ウェーバーでは、水鉄砲の様な仕組みで、ドライバーがパタンと速くアクセルを踏み込んだ時に強制的にガソリンを吹いていた。
この水鉄砲方式では霧吹きほど細かい霧にならないので、燃料が燃えにくい。しかし効率を考えなければ、仮に半分しか燃えないとしたら倍の量吹けばいいだけだ。「燃費なんてどうでもいい。レースに勝つことが目的だ」。ウェーバーはそういう思想で設計されていたのだ。 今の水準で考えればめちゃくちゃな話だが、エンジンがちゃんと回ってパワーが大きいほどエライという時代は、こんな単純な仕組みでも大丈夫だったのだ。設計目標はとにかくパワーアップだ。多少不完全燃焼しようが、排ガスが汚かろうがあまり関係ない。
■排ガス規制の時代
ところが、日本自動車史上の大事件「昭和51年排ガス規制」、ついで「昭和53年排ガス規制」が始まるとキャブレターではどうにもならなくなる。そこで「インジェクションシステム」が開発される。開発過程では紆余曲折あったのだが、最終的には「三元触媒」を使って排気ガスを浄化するところへ落ち着く。三元触媒は、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)の3つに効果があるので三元と呼ばれる。 COやHCなど酸素を与えて酸化させれば無害になるものには酸素を渡し、NOxのように酸素を奪い取って還元すれば無害になるものからは酸素を奪う。酸素が余分にあるものと少ないもの両方に効果のある触媒だ。機能面からの別名を酸化還元触媒という。 しかし、触媒自体が酸素を持っているわけではないので、NOxから酸素を奪い、それをCOやHCに付け替えるという仕事の仕方をする。そうなると取る量と渡す量のつじつまが合っていないといけないので、吸入空気量と燃料の比率を厳密に管理しなくてはならなくなる。この比率を「理論空燃比」と言うが、重量比で「14.7対1」となる。ざっくり言うと空気12リッターに対してガソリンが1ccほどだ。この比率を厳密に管理するにはキャブレターの適当な混ぜ方では精度が足りない。 そこで、様々な仕組みで空気の流量を計測して、それに見合った燃料を電子制御で正確に吹くシステムができた。これがインジェクションだ。最初期のインジェクションでは、この吸気量の時はこのくらいというデータマップをあらかじめ持っていて、そのマップを参照しながら燃料の量を決めていた。 しかしこれではまだ精度が足りない。外気温や気圧、エンジンの温度などちょっと条件が変わるとズレが生じるのだ。そこで、排気管にO2(オーツー)センサーを取り付けて排気ガス中の残存酸素量を計測し、それによって噴射量に補正をかける仕組みができた。これが「フィードバック式」と呼ばれる方法で、これによって三元触媒がしっかりと機能し、排気ガスを浄化しつつエンジンパワーを追求できる様になったのだ。 排ガス規制の度にエンジンはパワーダウンしたが、精度を向上させるとそういう問題は解決した。考えてみれば、余分に吹いていたガソリンを切り詰めることは出力には影響を与えない。出力低下を招いていたのは、過渡期の問題を解決できずに、普通の運転状態の時から燃料を減らしたり、後処理のための熱源として燃料を使ったりしていたためだ。 インジェクションの進化は、理論空燃比を適正に維持し続け、いかに無駄を切り詰めるかにあった。そこさえちゃんとしておけば、後は三元触媒が問題解決してくれる。それが排ガス規制対応インジェクションがたどり着いた答えだったのだ。