「ペロブスカイト太陽電池」GI基金で社会実装急ぐ、NEDOが考える産業化に必要なこと
「ペロブスカイト」に注力する背景は?
-ペロブスカイト太陽電池は薄くて軽く曲げられる特性を持たせられ、これまで置けなかった耐荷重の低い屋根や壁面などへの設置が期待されます。一方、化合物系のCIGS太陽電池など他の薄膜系も同様の設置が可能で、一定の性能を持っています。その中で、ペロブスカイト太陽電池の研究開発に注力する理由は。 松原 NEDOは必ずしもペロブスカイト太陽電池に絞って支援しているわけではありません。ただ、ペロブスカイト太陽電池は(2010年代に)変換効率が急上昇し、(小面積セルの最高効率は23年12月時点で26.1%と)他の薄膜系と比較して最も高い効率が出ています。また、製造工程に高温プロセスが入らず、低コスト化できる可能性も期待する理由です。 山田 技術としては(他の薄膜系も)フラットに見ていますが、ペロブスカイト太陽電池は(その変換効率などの性能から)期待値がやはり高いです。2050年のカーボンニュートラルの貢献に間に合う、産業化を目指す技術として(過去10年間に性能が著しく向上した)ペロブスカイト太陽電池が、今この瞬間に投資対象としてマッチしたとも言えます。 -ペロブスカイト太陽電池における日本の優位性として、政府はその主要原料の「ヨウ素」について高い生産シェアを持つ点を上げています。 山田 現在主流のシリコン太陽電池の原料サプライチェーンはすべて中国にありますよね。それをデメリットと捉えると、ペロブスカイト太陽電池はその課題が解消されます。産業を作るという観点では、メリットになります。 -中国企業は、シリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池を積層したタンデム型の研究開発が活発と聞きますし、市場も大きいと見られています。タンデム型の研究開発に対する支援についてNEDOはどのように考えていますか。 鈴木 タンデム型はCIGSなどの化合物系と、ペロブスカイト太陽電池を積層する取り組みなどを後押ししています。タンデム型の一番のメリットは高効率化です。それを生かすため、これまでは面積の都合で置けなかった、車載や小さな屋根などへの設置を狙って支援しています。シリコン太陽電池を置き換える市場は中国企業などが狙っており、非常に競争が激しくなると予想されます。そことがっぷり競合するのではなく、新しい市場を開拓することが目指すべき方向だと考えています。 -ペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けてNEDOは関連する法規制の調査も進めます。 鈴木 ペロブスカイト太陽電池はこれまで置けなかった場所への設置が期待されます。その際に建築基準法や消防法などの規制が関わってきます。例えばフィルム型の場合、その可燃性が問題になり得ます。そのように、想定される市場によってどのような規制が関わってくるかを整理します。 -今後の産業化に向けて重要なことは。 松原 企業は実用化に集中していますが、その際に人材育成がないがしろになってしまうと産業としてはいずれ衰退してしまいます。(産業化以降の)後ろの方もしっかりと見ていかなくてはいけません。 山田 長い歴史を持つシリコン太陽電池も、まだ進化が続いています。ペロブスカイト太陽電池の歴史は始まったばかりです。その先はまだ長いと考えると、持続性は大切で、それを支える人材が非常に大事になります。人が育つ環境がなければいけないと思います。産業化に成功し、大学の研究室で未来を語れるようになれば、学生も増えるでしょう。NEDOは(企業や大学などの研究開発を支援することで)そうした流れの創出を後押しできるのではないかと思っています。