イングランド最後の「魔女」、死刑判決受けるも生き延びた可能性 英研究者
無実の女性が魔女と見なされる
1542年から1735年の間、イングランドでは少なくとも500人の「魔女」が処刑されたと考えられている。当時魔法を使ったとされた者は死刑判決を受けた。これは政府の記録による数字で、実際の人数はこの倍に上る可能性もあると歴史家らはみている。スコットランドは2500人前後の「魔女」を殺害。欧州全体では最大6万人が処刑されたと考えられている。魔女裁判は北米でも広く行われた。最も知られているのは19人が処刑されたマサチューセッツ州セーラムでの事例で、この他にも拷問や取り調べの中で死亡した者がいた。 大多数は罪のない女性であり、たまたま魔女と疑われる条件を満たしていただけだった。通常は比較的年長で独り身というのに加え、歩行時に補助器具を使用することもしばしば魔女の条件に該当した。念頭にあるのは「女性や高齢者、身体障害者への反感だった」と、ストイル氏は指摘。そもそも関連する法律が作られた背景には、カトリック教徒が魔法を使ってイングランド国王ヘンリー8世と女王エリザベス1世を殺害したのではないかという偏執症的な考え方があったとも付け加えた。「皮肉なことに、当初カトリックの聖職者に対して適用された法律が、地方に住むごく普通の女性たちを対象とするようになった」(ストイル氏) 「これらの人々は、1735年に身の潔白を証明されるべきだった」と話すのは、シャーロット・メレディス氏だ。同氏の携わる活動「ジャスティス・フォー・ウィッチズ(魔女たちに正義を)」は、イングランドにおける犠牲者が死後の恩赦を受けられるよう議員に働きかけている。恩赦によって「全くの冤罪(えんざい)だったことが公式認定される」からだ。 イングランド南東部エセックスの元警部、ジョン・ワーランド氏は、これらの女性たちに起きたことを「忘れてはならない」と強調する。 エセックスでは、82人が魔法を使ったとして処刑された。この数はイングランドのどの州よりも多い。ワーランド氏は18年がかりで被害者たちの詳細を明らかにし、活動を展開。処刑された「魔女」のための記念碑をコルチェスターとチェルムスフォードに建てることに成功した。 同氏は女性たちについて、「必ずと言っていいほど、元になったのは隣人との口論だった」「歴史は彼女らのことを正しく伝えてこなかった」と語った。 ストイル氏は自身の研究結果を、英国の歴史協会が刊行する雑誌「ザ・ヒストリアン」の11月号で発表する予定。 「たとえ私が完全に間違っていたとしても、研究によってエービス・モランドの物語に光が当たった」「彼女は非常に身分の低い女性で、これまでいかなる形でも追悼されたことがなかった」(ストイル氏) ストイル氏の説にそこまで納得していない人物が1人いる。エクセター大聖堂の参事会員の娘として育ったジュディー・モランド氏だ。同氏は個人出資で設置された1996年の銘板設置に携わった。前述の通り、この銘板にはデボンで魔女として処刑された4人の女性の名が記されている。 70年代に「アリス」について知ったモランド氏は、自分たちと血縁関係があるのではないかと示唆して父親を「激怒させた」。90年代には2度の夏を利用し、アリスについて調査した。 「魅力的な題材が見つかったが、彼女の名前は一切出てこなかった」と、モランド氏は振り返る。同氏はアリスの生涯を想像で描いた小説を執筆している。 ストイル氏の発見については、「アリスという人物が存在したことを完全に確信している」と話すモランド氏。 その上で、「たとえそれがアリスではなかったとしても、誰か別の女性が魔法を使ったとして罪に問われたのだろう。それこそが重要だ」と訴えた。