種雄牛ってどうやって誕生するの? 枝肉の評価を基に選抜 長年の改良経て4系統に
食卓を彩る和牛肉。父となる種雄牛は、味や品質を支える大きな要素の一つだ。優良な種雄牛を父に持つ肉用子牛は、全国の肥育農家の人気が集まり、種雄牛も名を全国に響かせる。そのうちの一頭「福之姫」の急逝から1年半。次代の「スーパー種雄牛」が待望される中、どうやって種雄牛を誕生させるのか。現場を探ってみた。 和牛肉の肉質は、1頭分の枝肉重量やロース芯面積の大きさ、「霜降り」とも呼ばれる脂肪交雑基準(BMS)ナンバーの高さといった点で評価される。家畜改良センターや都道府県、民間事業者などは子牛を育てて枝肉にし、その肉質の評価を基に、父である種雄牛を選抜。選抜された牛の精液を供給し、種雄牛を血統に持つ子牛を生産する。 長年の改良を経て、多くの種雄牛は肉質や体形などの特徴を基に田尻系、茂金系、藤良系、気高系の四つの系統に分類される。 全国に種雄牛の精液を販売する家畜改良事業団の場合、種雄牛候補になる牛を毎年30頭確保する。その子牛を最低15頭ずつ肥育し、子牛の枝肉を評価する。種雄牛候補になる牛は、牛の能力を子牛の遺伝子情報から評価する。このため、種雄牛としての選抜までには約6年かかる。同事業団によると「種雄牛に選抜されるのは平均で1割程度」という。 「福之姫」の次に来る「スーパー種雄牛」はどの牛か。「福之姫」の息子の「福之鶴」や、島根県との協力種雄牛でBMSナンバーが歴代最高を記録する「暁之藤」、「福勝鶴」など「福之姫」の血統を持つ種雄牛に期待がかかる。 一方、BMSナンバーなど既存の評価基準だけでなく、おいしさの指標とされるオレイン酸含有率など、新しい肉質評価基準も誕生している。「『福之姫』の能力を補う種雄牛づくりも必要」(家畜改良事業団)となる。 10月に東京都で開かれた国内最大規模の全国肉用牛枝肉共励会では、「福之姫」の血統を持つ雌牛に、種雄牛「貴隼桜」や「知恵久」を交配して生産された枝肉の上位入賞が目立った。「貴隼桜」や「知恵久」は「福之姫」と異なる系統で、皮下脂肪が薄くなったり、オレイン酸の含有率が高くなったりすることが期待される。 畜産業界は経営悪化から離農も増え、基盤維持にも危機感が漂う。「スーパー種雄牛」は、飼料高騰と枝肉相場低迷という苦境下にある和牛農家の経営を救ってきた。同事業団は「農家の経営を後押しするような種雄牛づくりが必要」と話す。