着飾るべき? ジーンズは? 歌舞伎の「正しいドレスコード」に疑問
映像作品でも俳優たちの名演が評判になったり、漫画やアニメが原作の新作歌舞伎が多数上演されたことで、いつになく注目度が上がっている歌舞伎の世界。しかし興味がありつつも、「ドレスコードが厳しいんじゃないの?」などの不安に阻まれて、そのめくるめく世界を体験したことのない人が、まだまだ多いのではないだろうか。 【写真】約300人が回答した「ドレスコード」のイメージとは また、その不安をあおるような情報もいまだに散見されるなか、アンケートや実地調査をもとに「歌舞伎、本当はなにを着て行ってる?」を探ってきました。 取材・文/吉永美和子
■ 正装 or カジュアル? 意見が割れる「ドレスコード」
きっかけになったのは、Yahoo!ニュースにも掲載された、とあるウェブ記事だ。要約すると「歌舞伎は非常に格調が高いから、着物などでしっかりおしゃれをしてくる場所。しかも服装チェックが厳しくて、格の恐ろしさを思い知らされる」という内容だが、これに多くの歌舞伎ファンが「ビシッとおしゃれしても、そうでなくても、どちらでも楽しめる場所」「上演時間を苦なく過ごせて清潔でほかの人に迷惑かけなければ十分」などと、SNSで大反論! かくいう私も「いやいやいやいや」と、画面に向かってツッコミを入れたひとりだ。 私は年に数本ぐらいは歌舞伎を観に行く生活を20年以上送ってるけど、着物を着たことは一度もない。というか、舞台ばかりに集中しているからか、ほかの観客の服装をチェックすることなど考えたこともなかった。しかしそう言われると、みんなどんな服装で行ってるのだろう? さっそく数少ない友だちのなかから、よく歌舞伎を観ている人にリサーチすると「オフィスカジュアル程度」(私もこの系統)「ワンピース&パンプスのときもあれば、ジーンズで行くときもある」「リラックスして観られるよう楽な服」などの回答だった。 しかし、これではあまりにも分母が小さい。というわけで、おりよく開催されていた「南座」(京都市東山区)の「吉例顔見世興行」に行ってきた。ただ、南座の「顔見世」は歌舞伎公演のなかでも歴史が長い分やや格調が高く、しかも今回は市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿の襲名披露というビッグイベント。そのためほかの歌舞伎公演よりも、華やかなファッションでのぞむ人が多いことが推察された。 というわけで休憩中は、いつもより客席やロビーを見渡し、くまなくファッションチェックをしてみたが、やはり京都という場所柄もあり、着物率は割と高い。私の体感だけど、すれ違う人の1割ぐらいは着物姿だ。でも晴れ着というよりは、ほぼ日常遣いっぽいシックな訪問着。意外なのは、女性はワンピースやスカートより、パンツ率の方が高いこと。しかもヒールやパンプスではなく、足への負担が少なそうなぺたんこ靴がほとんどだった。 ちなみに男性はどうかというと、着物の人はひとりしか発見できず、ジャケットの着用率も3分の1ぐらいといったところ。女性よりもさらに、カジュアルな装いの人が多いという印象だ。総じて、河原町辺りを歩いている人たちの服装とさほど変わりはない感じで、「うわー、気合い入ってんなー!」と思うようなファッションの人は、昼夜通してもさほど見かけなかった。南座の顔見世でこれだったら、多分ほかの公演はさらにくだけた服装の人が多いと思われる。 とはいえ、たった1公演のファッションチェックだけで「歌舞伎ってこんなんですよー」と言い放つのもどうかと思うので、ここはフォロワー数2.4万の『Lmaga.jp』の公式X(旧ツイッター)の力をお借りして「歌舞伎にどんな服装で行ってますか?」というアンケートを取ってもらった。300人弱にご協力いただいた、その結果は以下の通り。 7割ぐらいの人が普段より小ぎれいに、そして2割ぐらいの人が普段着であるか、服装には気を使わないという結果になった。アンケートには「仕事の服装と同じレベル」という選択肢もあったが、これに回答をされた方は、職場から直接劇場に向かうことが多い人たちかもしれない。そして意外にも「気合いを入れてドレスアップ」は1割にも満たなかった。先の記事に上がっていた「しっかりおしゃれをしていく場所」という意見は、実はかなりの少数派だったということが、現地視察&アンケートで確認できたと言ってもいいだろう。