「多様性をアピール」「しかし貧乏な日本人は静かに排除」…。東京で急増する、似たり寄ったりな“金太郎飴”商業施設が抱えた矛盾
という仮説である。 ビルを手掛けた人たちに取材したわけではないので、あくまでもフィールドワークを重ねたなかでの、筆者の個人的な感想にすぎないのだが、とはいえ、高級ホテルが入っていれば、そのビルは富裕層のニーズを満たすほど、安易なものではない、というのは間違いないだろう。 そんな気持ちで『地面師たち』を見直していると、なんとも嫌なシーンがあることを思い出す。ビルの計画完成後に上司から1万円を渡され「これでビールでも買ってこい」と言われ、計画を作っている人たちが大喜びする……というシーンである。
このシーンを見たわれわれは、「一流企業のデベロッパーの社員とはいえ、まあ庶民だもんな。税金や社会保険料も高いだろうし」などと思うわけだが、なんとも示唆に富んだ寓話と言えよう。 富裕層の真のニーズをつかめているのか、という話なわけだが、この点で参考になるのは、近年インバウンド観光地としてインパクトを増しているニセコかもしれない。 ニセコでの観光地の展開についてマリブジャパン代表の高橋克英氏は『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』で、ニセコにある多くの国際ホテルが、富裕層の行動パターンを徹底的に理解した上でリゾートを成立させていることを述べている。
例えば同書では、海外富裕層が「何もしない贅沢」を求めていると指摘する。そのうえで、滞在するホテルからあちこち出歩かないために、ホテルの中にスパやプール、アクティビティ施設などが必要になるという。 「ニセコでは、パークハイアットニセコHANAZONOなどがその典型であるが、そもそもここに滞在すると、わざわざ食事は外で、アクティビティは別の場所で、とはならなくなる。ホテル施設やサービスも当然、そうした戦略のもと設計されている」と高橋は書く。
もちろん、ニセコの成功もずっと続くものではないかもしれないが、都市再開発を理解するうえでは重要な観点だろう。 つまり、どんどんビルを建てること自体が問題なのではなく、マーケティングや消費者理解の浅さの結果、「誰もが得していない」状態が生まれてしまうことが、もっとも問題なのだと思えてくるのだ。 ■直線の経済から迂回する経済へ 都市計画学者の吉江俊は『<迂回する経済>の都市論』の中で、高層ビルを建てすぐにコストを回収する、というような、目的に向かって最短で利益を上げていこうとする都市開発の方法を「直線の経済」と呼んでいる。