【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その3
良心的な値付けだったので、漆器と磁器をいくつか手に入れた。こういう買い物ができるのもクルマ旅の魅力。電車や飛行機ではこの先長いというのに、持ち重りがしたり、ボリュームのある物は手が伸びない。
店を出ようとした時、足元に妙な木組みが積まれていた。「ワインホルダーにいいですよ」と、件の女性が微笑む。この一帯は浜縮緬やビロードの生産が盛んだったようで、この木組は縮緬工場で使われていた糸巻きだという。ひとつひとつ傷や汚れが異なり、霞んだ墨やマジックの書き込みが見える。その数字や文字は、糸の太さや素材の表示なのだろうか…いい風情に目が止まった。まさに、土地の歴史と文化がにじみ出る逸品。長浜のような街でなければ出会うことはないだろう。ひと目惚れでふたつ購入した。
その先の一軒は、アユやコアユ、ホンモロコ、鮒ずしなど滋賀の淡水魚の専門店。目の前の琵琶湖の恵みが誇らしげに並んでいる。ホンモロコは琵琶湖を代表する美味なので、甘露煮を買うことに…。クルマにはクーラーボックスが載っているから、保冷材を交換しながら旅をすれば、手土産に使えそうだ。
その頃にはすっかり長浜の街歩きが楽しくなっていて、その魅力にどっぷりと浸かっていたのだった。
【筆者の紹介】 三浦 修 BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。 【ひねもすのたりワゴン生活】 旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。
三浦 修