【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その3
妙に構えて、眉間にシワを寄せて乗り込んだけれど、杞憂に過ぎなかった。むしろ、その自然なモザイク感が妙な楽しさと居心地のよさを呼んでいて、気がつけばすっかり惹き込まれていた。
黒壁スクエアは、かつて北陸と京阪神を繋いだ北国街道に沿って広がっている。主な店舗は25軒ほど。今風のギャラリーもあればカフェもある…セレクトショップも、手作り雑貨もあるけれど、近江牛や湖産魚、焼き鯖そうめんといった地元色が濃い店々に静かに寄り添っている。
城下町長浜は秀吉の時代、楽市楽座で大きく発展したという。明治維新後、全国で3番目に鉄道が敷かれた史実からも、その隆盛ぶりが分かる。しかし、多くの基幹都市と同様、郊外型の大規模商業施設が進出すると、この商店街は勢いを奪われていった。そこで1980年代末に行政と民間の有志によって、街の再生プロジェクトが始まった。
この手の話は、外部から来た大手デベロッパーやコンサル主導でコンセプトがどうの、マーケティング的視点がどうしたの…という図式がすぐ浮かぶが、この街で育ち暮らす人々が中心となって、地元の行政と手を取り合い…というところからスタートした構図らしい。浮わついた雰囲気があまり感じられないのは、そんな背景の賜物なのかもしれない。
観光客ばかりだと思っていた人通りだが、よく見れば普段使いの買い物袋を持ったリ、自転車を押したりという地元の人々も多い。八百屋や鮮魚店、惣菜店がずらりと並んでいるというわけではないので、夕餉の買い物ではないのかもしれないが、生活で行き来する街として機能していることが分かる。
ふと、一軒の古道具店が目に入った。店の外にまで陶磁器や漆器を並べ、店内にもかなりの品数が見える。この街で、陶磁器を手に取るつもりはなかったけれど、店内半額という貼り紙と、オーナーとおぼしき年配女性の笑顔に惹かれ、足を踏み入れてしまった。聞けば、月内で商いを閉じるので在庫を処分しているのだという。