やり投げ・北口榛花インタビュー チェコでの単身修業からパリ五輪へ、自然体の決意
笑顔の裏の挫折と悔し涙
数あるオリンピックの競技の中でも、陸上は花形競技の一つだ。100メートル走や200メートル走、マラソンやリレーなどは、大会随一の最高潮の盛り上がりを見せる。ただ、日本勢は、五輪陸上競技の金メダルからは遠ざかっている。2004年のアテネ大会で、女子マラソンの野口みずきと男子ハンマー投げの室伏広治が獲得したのが最後で、北口がパリ大会で金メダルを獲得すれば、実に20年ぶりとなる。 北口は、去年の世界選手権での金メダル、今シーズンの連戦連勝を考えれば、パリ・オリンピックでも金メダルの最有力候補と言える。しかし、本人に周囲からの期待を聞くと、満面の笑みを浮かべながら、言い放った。 「やっぱり周りの人は、『(金メダル)獲るだろう』みたいな感じですよね。『そんな簡単じゃないから』って私は思っていますよ。今までこんなに陸上のやり投げという種目を応援してくれる人は多くなかったと思うので、見てくれる人が増えるというのはすごく嬉しいですけど、メダルは簡単じゃないです」 北口にはオリンピックにまつわる苦い思い出がある。2016年のリオ五輪前、大学生になってさっそく日本歴代2位となる記録を叩き出した北口は、五輪出場も目指せる位置にいた。しかし、焦りによる無理が祟って故障を抱えることになり、出場を逃した。華々しく行われたオリンピックは地元の旭川で観戦した。 当時のインタビューでは、「ひとりで練習していて寂しい気持ちもあるけど、自由にできるんだから、こういう時に自分の足りないところを強化しなきゃと思っている」と話し、将来を見据えてひとり、旭川にある小さな陸上競技場で黙々とトレーニングに励んだ。 それから5年後、新型コロナウイルスの影響により1年遅れで迎えた2021年の東京オリンピック。念願の初出場を果たし、日本人として57年ぶりに女子やり投げの決勝に残った。競技場では、トレードマークとも言える「笑顔」を浮かべていたように見えたが、実は北口本人はいつもとは違う自分を感じていた。 結果は、前半3本の投擲で自己ベストに遠く及ばない53メートルから55メートル台の記録で、トップ8(前半の3投で上位8人が後半の3投に進む)に残れず、12位で大会を終え、悔し涙を浮かべた。 直前に迫ったパリ大会について、「とりあえず健康に元気に、『空笑い』じゃなく、自然に笑ってオリンピックを終えたいなと思います。東京では予選が終わってから決勝まで、元気を振りまきまくっていたので。そうではなく、オリンピック全体を通して元気に終えたい 」と話す。