やり投げ・北口榛花インタビュー チェコでの単身修業からパリ五輪へ、自然体の決意
柔軟性を活かしながら、筋力と走力アップに挑む
ドイツの文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテはかつて、「外国語を知らないものは、母国語を知らない」と言った。これは何も言語だけに限ったことではない。北口も海外での挑戦を続けたからこそ認識できた自分の強みがある。それは「柔軟性」だ。 北口は肩の可動域が広いため、助走で勢いをつけた後、腕をより後ろ側に残した状態から投擲動作を始めることができ、やりに力を伝える時間を最大化できる。この上半身の柔軟性は、世界でも自分にしかない強みだと気づいたという。 しかし、今シーズン序盤、4月や5月の大会では、冬場のトレーニングで筋力がついたことによって、その柔軟性を最大限に発揮できていないと感じていた。今回の取材時も、現地に付き添っていたトレーナーは、「もっと後ろに腕を残すことができるはず」と話していた。現在、練習は週に6日程度だが、やりを投げるのは週に1回程度。多くの時間を柔軟性の回復や、俊敏性などの強化に使っている。 「世界の試合で色々な選手の投擲を近くで見ると、結構みんな投げ方が異なり、その中でも、私は他の選手とはちょっとバランスが違うのかなというのは感じます。欧米の選手は筋力トレーニングをした分、その筋肉を使いこなしてパワーをやり投げに結びつけているような気がするんですけど、 私は筋力トレーニングでついたパワーをやり投げにどう生かすのかっていうのが、いまいちわからないんです」 さらに、助走の強化も課題だ。やり投げは、前を向いた助走、体を横に向け勢いを維持しながら投擲準備をする「クロス」と呼ばれるステップ、そして投擲という3つの動作に分かれる。3つの動作の繊細なバランスが求められ、柔軟性を活かした投擲動作を妨げない程度に、走力を強化する必要がある。 北口は高校時代からずっと「助走」が課題だと言われてきた。恵まれた上半身をもつ一方、その体を活かすための下半身が出来上がっていなかったのだ。しかも、速く走れば良いというものでもない。例えば、前日本記録保持者の海老原有希選手は、長い助走から一気に加速し、その勢いをやりに伝えるタイプだが、北口は全く違う。かつて陸上関係者に北口が海老原選手のようにやりを投げたらどうなるかと聞いたことがあるが、「すぐにケガするでしょうね」と言っていた。北口としては、基礎的な走力を上げつつ、強みの上半身を活かすことができる適度なスピードを模索している。 「全体的な走力アップを図っているので、スピードが出やすい状態にはなっていると思います。でもスピードが上がったからといっても、全力で走ったままやりは投げられない。足が動いている速さと自分が進むスピードが合わなかったりするので、自分が投げられるギリギリのスピードを探ったり、そこの調整が課題だと思っています」