どんな時に押せばいい? 押したらいったいどうなる? 駅のホーム設置の非常停止ボタン
線路への転落のほか、過去には、自殺しようとしているとみられる人が線路内に立ち入った時にボタンが押されたケースもあります。同社鉄道本部駅業務部企画課課長代理の大田三好さんは、「ほかにも、ホーム内に看板が落ちていた時、ホーム上に体調の悪い乗客がいた時に押されたケースがあります。ボタンを活用することで、事故を未然に防ぐ効果があると考えています」と話します。
新大久保駅での事故がきっかけ
この列車を非常停止させるためのボタンは、JR西日本だけではなく鉄道各社の駅に設置されています。 多くの鉄道会社の駅に設置が広がるきっかけとなったのが、2001(平成13)年1月にJR山手線・新大久保駅で起きた人身事故です。この事故では、ホームから線路に転落した1人と、その人を救助するために線路に降りた2人の計3人が入ってきた電車にはねられ亡くなりました。 この痛ましい事故を受けて、国は同年2月、鉄道各社に対して、(1)列車のホームへの進入速度がおおむね時速60キロ以上(2)1時間あたりおおむね12本以上の列車が通過または停車――という2つの条件を満たすホームにはボタンを設置するなどの安全対策の実施を求めました。 国土交通省鉄道局施設課によると、この2つの条件を満たすホームのある駅のうち、国が求めた安全対策を行った駅の割合は、2001年度の37.8%から着実に増えていき、2014年度には100%に到達しました。
各社で異なるボタンの名称
乗客の安全に欠かせないボタンですが、実はその名称は鉄道会社によってまちまちです。JR西日本は「非常ボタン」、あるいは「ホーム非常ボタン」と呼んでいますが、同じJRグループでもJR東日本は「非常停止ボタン」と名付けています。このほか、小田急電鉄はJR東日本と同じ「非常停止ボタン」、阪急電鉄は「列車非常停止ボタン」、京阪電気鉄道は正式名称を「ホーム異常通報装置」としていますが、乗客に機能をより分かりやすく伝えるためにホーム上では「非常通報ボタン」と表示しています。なお、国は「非常停止押しボタン」としています。 名称だけでなく、ボタンのケースの形状も各社バラバラですが、危険が発生した時に駅係員や運転士にいち早く伝える、という基本的な機能は同じです。 国交省の担当者は「ボタンの設置によって迅速な救助や列車の停止の実現につながっている」と評価。一方で、「列車が駅に入ってくる直前に押されると急に止まるのが難しいことや、そもそもボタンが押されなければ危険を検知できない点が課題」と機能面での限界も指摘しています。 (取材・文:具志堅浩二)