1日ベッドで安静にしているだけでヒトは<2歳老化>する?腎臓リハビリ専門医「長年推奨されてきた<慢性腎臓病=安静第一>という考えは今や…」
◆1日ベッドにいるだけで2歳老化する 私がそんな疑問を抱くようになった背景には、日々、患者さんを診ているうちに安静がもたらす害を実感するようになったからです。 1990年、当時34歳だった私は、岩手県立宮古病院で内科医長を務めていました。当時の宮古病院では、入院患者さんの多くが高齢者でした。 入院の原因の多くは肺炎や心不全などで、治療によって回復したにもかかわらず、ベッドから起き上がれなくなってしまう患者さんが多かったのです。治療のため、安静にして休んでいる間に、筋力が低下したことが原因でした。 一般的に筋肉量は、20代後半から30代はじめにピークに達したのち、1年経過するごとに1%ずつ減っていきます。しかし、体を動かさずに安静にしていると、早いスピードで筋肉が落ちていきます。 まる1日ベッドで安静にしていると、たった1日のうちに、2%の筋肉量が低下してしまうことがわかっています。 つまり、たった1日で2歳老化したのと同じことが起こるのです。 1980年代辺りまでは、腎臓病に限らず、多くの疾患の治療において安静が重要と考えられてきました。 例えば、心筋梗塞(しんきんこうそく)(心臓の血管が詰まって起こる病気)を起こした患者さんは、心筋の一部が壊死(えし)し、それが瘢痕(はんこん)(ケロイド)化します。 その部位が安定するまでは無理なこと(運動など)をすると心臓が破裂するとされ、長年、安静が推奨されてきました。 しかし、医療や医学研究の進展によって、そうした安静への志向に疑問が持たれるようになっていきました。 特に手術後に安静を保つことに疑問が持たれ始め、むしろ「安静は有害」という考え方が次第に広がり始めます。
◆アメリカから始まった変化 変化はまずアメリカから起こりました。入院期間の短縮化が進み始めます。早期離床の研究が進み、患者さんがベッドから離れる期日や入院期間がだんだん短くなっていきました。 「じっとしていると、その分だけ体力が低下して寿命が縮まる」として、手術を受けたらできるだけ早くベッドから起き上がり、早くリハビリを始めることが回復を助けると考えられるようになってきたのです。 アメリカに追随するように、日本でも、手術後の入院期間の短縮などが遅ればせながら進み始めます。 しかし、慢性疾患の患者さんや高齢者の健康管理については、安静や運動不足が体に大きな害をもたらすという考え方は、まだまだ広まっていませんでした。 慢性腎臓病だけに限りませんが、病気をよくするためには安静がよいという考えは、近年まで根強く残っていたのです。 繰り返しになりますが、入院した原因である病気がよくなっても、安静にし過ぎた影響で歩けなくなってしまう患者さんを、私は多く診てきました。 このような臨床の経験が、のちに腎臓リハビリを構想するための一つの契機となったのです。
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