子どもの自殺が多い「9月1日」――内田也哉子が識者と考える「もし自分の子どもに学校に行きたくないと言われたら?」#今つらいあなたへ
もし自分の子どもに「学校に行きたくない」と相談されたら?
内田: 私の3人の子どもたちは、絶対に学校へ行けないという場面には、まだぶつかったことがないんです。けれど、幼いながら日々いろいろと悩んでいる姿も見ています。もし学校に行きたくないと言われたら、「なぜそう思うの?」と尋ねつつ、最終的には「じゃあ今日は休んでみようか」と言ってあげられる気持ちでありたいなと思います。 でも、以前取材した方からは、数日の休みのつもりが数か月の休みになって、結局何年も学校に行けなかったという話も伺っています。「休んでいい」と言ってあげるにしても、親としては相当の覚悟が必要ですね。 平岩: 休んでいいか悪いかの判断を、まずは親が決めていく形になるので、本当に悩むと思います。しかし、最終的にはその子自身の問題になるんですよね。行くことも行かないことも、決めるのは本人。それによってどういう結果が起きたとしても、それを受け止めるのも本人。親ができるのは、せいぜい相談相手になることと、伴走することなんです。なので、相談に乗りつつも、どうするかは自分で決めてねというコミュニケーションにだんだん移していくということが重要です。判断をするためのボールは子ども自身が持っているんだ、と考えてみてほしいです。 内田: 主体性をちゃんと持たせて、大事な決定権は子どもに与える。与えるけれども、ちゃんと私たちは見守っているよ、どんな選択をしても独りぼっちにはさせないよ。そういう大きな愛を持って子どもに接していれば、親もそんなに怖がらずに、子どもに決定権を持たせてあげることができそうですね。
大切なのは「余白」 自己決定できる幸せを育むために
平岩: 決定権を子どもに与えるということは、実は大きなポイントです。幸せに関する研究を調べてみると、“幸福感”と“自己決定できる環境”は相関関係が強いとされています。自分の時間の過ごし方を自己決定できたという経験は、幸せのベースになるでしょう。 けれど、一つ問題があります。子どもが自分で考えたり決めたりするための時間――「余白」が、今の子どもたちの生活にほとんどなくなってきています。 内田: たしかに、子どもたちに明るい未来や将来を提供したいがために、例えば放課後にいろいろな習い事をさせる家庭は多いですね。親としてその気持ち、すごくわかります。私も3人目の子育てでようやく、何もしないぼんやりとした時間が必要だなと思えるようになって。3人目からはなるべく習い事をやめて、自分でその時間に何をしたいかを考える、想像力を培えるひと時にしたいと思っています。 平岩: 子どもも大人もそうだと思うんですが、やらねばならないことや行かねばならない予定を、ぎゅうぎゅうに詰め込み過ぎない方がいいと思うんですよね。子どもの中には、週7日分の予定が決まっている子が結構いるんですよ。たとえ大人でも、週7日行かなければいけない場所があるというのは辛いはずなのに。 それに、子どもに7日間予定があると、大人も付き添いやらに追われてしまいます。なので私は、「大人と子どもが共通して真っ白な日を1日持ってほしい」と保護者の方によく言うんです。目覚まし時計なんか放り投げて、いつまでも寝ていい日があってもいい。起きてからやることを考えようぜみたいな日を、親子で作ってみてほしいです。 内田: 親御さんたちは働いていたり、家庭のいろんな切り盛りがありますよね。そんな中で子どもが立ち止まっていることに気づけないことも、実はたくさんあると思うんです。だからこそ、大人自身も日々の中で「余白」を意識的に作り、子どもの変化に気づけるゆとりを持てるといいですね。 ----- 内田 也哉子 1976年生まれ、東京都出身。文章家、音楽ユニットsighboatメンバー。樹木希林、内田裕也の一人娘として生まれ、19歳で俳優の本木雅弘と結婚。2男1女をもうける。著書に『ペーパームービー』(朝日出版社)、『会見記』『BROOCH』(共にリトルモア)、志村季世恵との共著『親と子が育てられるとき』(岩波書店)、樹木希林との共著『9月1日 母からのバトン』(ポプラ社)、中野信子との共著『なんで家族を続けるの?』(文藝春秋)。翻訳絵本に『たいせつなこと』(フレーベル館)など。連載「Blank Page」を『週刊文春WOMAN』にて寄稿中。Eテレ「no art, no life」(毎日曜あさ8:55~)では語りを担当。 平岩 国泰 1974年生まれ、東京都出身。放課後NPOアフタースクール代表理事。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動を開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~2019年文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書に『子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門』(2019年発刊)。