『虎に翼』から今に繋がる社会問題 夫婦別姓、同性婚、ヤングケアラーを描いた意義
百合(余貴美子)の認知症を通して描く介護の問題
さらに、百合(余貴美子)が認知症となり、星家では度々問題が起きている。昭和34(1959)年当時、世間の認知症への理解は浅かったし、まだ対処の仕方もあまり広まっていなかった。だが、いつの時代にも確実にあった問題で、『虎に翼』はそこをきちんと描いている。 そして、百合と一緒に過ごすことが多い優未(毎田暖乃)は、お手伝いさんが来てくれるとはいえ、外に働きに出ている寅子や航一、のどか(尾碕真花)よりも、心身ともに負担が多く、近年、大きな問題となっている“ヤングケアラー”状態なのではないだろうか。第113話では、そのストレスが爆発し、のどかをキックしてしまった優未。きれいごとでは済まされない、認知症とヤングケアラーの問題まで、しっかりと取り上げている。 そして、女性視聴者から共感を呼んでいるのは、寅子の更年期障害だ。昭和34年当時、ほてりが続く寅子は、自分の不調の原因をはっきりとは理解できていなかったが、航一が図書館で本を借りて調べてくれたので、更年期障害だと知る。朝ドラの中で、更年期障害を正面から描いたことは、これまでなかったように思う。 更年期のつらい症状には個人差があり、現代では婦人科を受診することが推奨されているが、「原爆裁判」という重大な案件を担当し、認知症の百合とも向き合いながら、寅子はどのように乗り切るのだろうか。当時の女性が、仕事と家庭を両立する中、更年期障害に見舞われる状況まで描く『虎に翼』は、あらゆる社会問題をすくい上げる、稀有な作品だ。最終話まで、1話も目が離せない。
清水久美子