篠崎・進士法律事務所・進士肇弁護士 独占インタビュー ~ 会社と株主の架け橋となる株主総会検査役とは ~
―株主総会検査役(商事法務)の発刊経緯は
個人株主の権利意識が高まり、コーポレートガバナンス・コードが後押しとなって、アクティブ・ファンド(※4)などによる上場会社への接触が多くなった。会社・株主間の対話が増え、株主による権利行使(特に株主提案権の行使)により利害対立・緊張関係が生じる事案も増えてきた。対立は、株主総会における議案審議(議決)の場面で、究極的に発現する。その際の票のカウントに関して、株主側の不信感や、会社による報告不備(説明義務違反)があると、決議取消訴訟等に発展する。そのような事態は株主、会社にとって不幸なことだ。 ※4 独自の投資判断に基づき、指数を上回るリターンを目指すファンド 「転ばぬ先の杖」として、株主総会検査役の出番となるが、この制度は意外に知られていない。その理由を考えてみたところ、①株主又は会社など、本制度を利用する当事者、②検査役選任申立てを手伝う代理人弁護士、③株主総会検査役、の三方面を統合・整理した書籍がこれまで出版されていなかったことが一原因だと思い至った。 私自身、年間2~3回ほど、裁判所の選任により株主総会検査役を担当してきた。(株)LIXILグループなど、世間の耳目を引く案件にも関わった。また2022年8月、東京地方裁判所民事第8部(※5)主催の座談会「総会検査役の実務と手引き」にパネリストとして参加し、これが同年12月に「金融法務事情」(金融財政事情研究会)(※6)に掲載された。この機会に、裁判所や他の弁護士パネリストの貴重な意見を聴くことができ、多くの刺激を受けた。そこで、私の検査役担当案件を補佐してくれた中江民人弁護士や三井稜賀弁護士と相談し、彼らと一緒に本書を著述しようと思い立った。 ※5 商事訴訟事件、会社非訟事件、仲裁法に規定する事件などを専門に取り扱う ※6 No.2200(2022年12月25日号)
―検査役の役割とは
検査役というのは本来、株主総会の記録屋さんに過ぎない。主役はあくまでも会社と株主。そこの分を弁えず、検査役が矩(のり)をこえてしゃしゃり出ることは許されない。 しかし他方、会社や株主(や各代理人)との事前面談を通じて、対立軸を明らかにしながら株主総会が無闇に荒れないように、ある程度まで事前にコーディネートすることが検査役には可能だ。また、費用を負担して検査役選任申立てをした株主や会社は、自分の考えを会社に伝えてほしいとか、総会の安定運営に寄与してほしいとか、そういう思いを持っていることが多い。 それらを聴きながら、矩をこえない範囲でいかに役に立てるかを事案ごとに考えるのが検査役業務の魅力である。受け身の検査役業務を、少しだけ能動的に捉えてみるというのが私のスタンスであり、これは法的整理案件における管財人や監督委員の仕事と同様だ。ちょっとお節介なのかもしれない。 検査役選任案件は今後確実に増えていく。だからこそ東京地裁民事8部も座談会を企画したのだと思う。若手弁護士の皆さんにも必ずチャンスが訪れるので、ぜひその折には『株主総会検査役』第1章のドキュメントを読んで事前学習し、雰囲気に浸ってほしい。また、現在、検査役を担当している方々におかれては、後進を育てるために、積極的に若手弁護士を補佐として起用してほしい。