ネット利用の落とし穴~フィルターバブルとエコーチェンバー
ネット利用の落とし穴~フィルターバブルとエコーチェンバー
インターネット検索は、確かにとても便利です。グーグルで「糖尿病」と入力すると糖尿病に関するさまざまな情報が見られますし、アマゾンで「糖尿病」と入力すれば糖尿病に関するさまざまな書籍を購入することができます。その便利さゆえ、わたしたちは何度も繰り返してインターネットで検索しています。 グーグルやアマゾンなどインターネットでサービスを提供する企業は、ユーザーがもっと頻繁に検索するように、そして検索された物やサービスをもっと購入するように、ユーザーの検索履歴やクリック履歴を分析して学習し、検索アルゴリズム(※)を個別化(パーソナライズ)しています。そのため、同じ「糖尿病」という語で検索しても、出てくる結果やその順序は、ユーザーごとに違っている可能性があります。ただし、アルゴリズムがどのように個別化されているのか、その詳細をユーザー自身が知ることはできません。このように、アルゴリズムが判定した、言い換えればフィルターをかけた情報が優先的に表示され、ユーザーの嗜好(しこう)のバブル(泡)の中に閉じ込められる状況を、「フィルターバブル」と呼びます。 米国のインターネット活動家であるイーライ・パリサーは著書(1)で、フィルターバブルの問題として、①フィルターでユーザー同士が分断されてしまいユーザー間で情報を共有できない、②フィルターが偏向しているかどうか自分で確かめることができない、③フィルターを自ら選んだわけではなく、避けようにも避けにくい―ことを挙げています(2)。 もう一つ、インターネットを利用する際に気を付けたい点として「エコーチェンバー」が挙げられます。ソーシャルメディア(SNS)を利用する際に、自分と興味・関心が似たユーザーばかりをフォローする結果、似た意見ばかりに接するようになることを、閉じた部屋(チェンバー)で音が反響(エコー)する現象に例えたものです。 SNSで自分と似た意見ばかりに接していると、たとえそれが社会全体で見れば少数意見だったとしても気が付かず、主流の意見であるかのように感じてしまいがちです。同じ意見を頻繁にやりとりすることで、さらに過激になってしまうこともあり得ます。エコーチェンバーに陥らないようにするためには、SNSだけに頼らず、新聞やテレビなどのマスメディアにも目を通しておくことや、SNSでは意識的に自分と異なる意見の人もフォローすることをお勧めします。 ※検索結果の表示順位を決めるプログラム 【文献】 (1) イーライ・パリサー著「閉じこもるインターネット-グーグル・パーソナライズ・民主主義」(早川書房、2012)、現在は改題された文庫本「フィルターバブル」(ハヤカワノンフィクション文庫、2016)が入手しやすい。 (2) 総務省「令和元年版情報通信白書」(2019)第1章第4節「デジタル経済の中でのコミュニケーションとメディア」 北澤京子(きたざわ きょうこ) 医療ジャーナリスト 京都薬科大学非常勤講師 *『月刊糖尿病ライフさかえ 2023年10月号』「賢く付き合おう! 健康・医療情報」より