彬子女王殿下が語られた、「博士論文性胃炎」になったときのストレス解消法
「日本からの便りほど嬉しいものはない」
もう1つのストレス解消法はお風呂である。幸いなことに2度目の留学中に住んでいた寮の部屋には大きなバスタブがあった。そこで1日の終わりのお風呂タイムをゆっくり取ることにしたのである。 でも、英国は年中乾燥していて、お風呂に長時間入ると脂分が落とされすぎて乾燥肌で痒くなる。対抗策として最初は英国のスーパーで売っている、ちょっと高級なホテルに置いてあるような「あわあわ」になる入浴剤を入れてみた。でも、それではよい香りはするけれどお肌の問題はよくならない。 そんなとき、日本の友人がお土産に温泉の素セットをもってきてくれたのである。これが正解。使いはじめてからしばらくすると、痒みは落ち着き、徐々に肌がつるつるになっていったのである。 よい香りのお風呂に毎日ゆっくり入ることがスイッチをオフにする手助けになったのだろうか、きちんと眠れるようにもなっていった。 こうなると温泉の素なしでは生活ができなくなってくる。侍女さんに頼んで日本から送ってもらうことにした。数週間後、家から届いた荷物。開けてみると玉手箱のような大きさの桐箱が入っている。しかも重い。 不審に思って恐る恐るその桐箱を開けてみると、いろいろな種類の入浴剤がぎっしりと詰まっている。箱のうやうやしさと入っていたもののギャップが大きすぎて、一瞬事態が理解できなかった。そして、この桐箱に入浴剤を真剣に詰めている侍女さんの姿が目に浮かんで、おかしくなってひとしきり笑った。 英国で一人暮らしをしていると、日本からの便りほど嬉しいものはない。入浴剤のほかにも、たくさんの方々がいろいろなものを届けてくださった。 父の手紙が定期的に届くのはもちろんのこと、祖母も手紙に加えてときどきお米やインスタントのお味噌汁、缶詰などを送ってくださった。名古屋の知り合いのおばさまから真空パックされた焼き鮭や鰻の蒲焼きが届いたこともある。 家からは月1回必ず小包が届く。中身は私が購読していた雑誌や雑貨、日本食材など。そして、いつも何かしらサプライズが入っていた。金平糖や疲れた目をリラックスさせるためのアイマスク、もこもこの靴下など......いつも侍女さんたちが私の体調や精神状態を考慮して、癒しの贈り物を忍ばせてくれる。 毎回小包を開けるときは、「今回は何が入っているのかな?」とわくわくした。毎回何を送ろうかと考えてくれている侍女さんたちの心遣いがほんとうに温かかったし、どれだけ助けられたことだろう。 毎日論文執筆で張り詰めた精神状態が、この小包を開けるときはふと緩み、顔がほころんだ。月1回届く私の栄養剤だった。 ひと言でいえば、「とにかく大変で辛かった」留学最後の1年間。でも不思議と「もうやめたい」とは1度も思わなかった。それはきっと私が、たくさんの人たちの愛情と応援に支えられていたからに違いないのである。
彬子女王