彬子女王殿下が語られた、「博士論文性胃炎」になったときのストレス解消法
行きつけのオックスフォードのサンドイッチ屋さん
このことに気づいてから、勉強場所を少し変えてみることにした。人の声が聞こえるほうが逆にほっとする。私の向かった先は喫茶店である。 私の行きつけだったのは、オックスフォードの目抜き通りにある18世紀ごろの古い木造建築を改装したサンドイッチチェーン店。外からみると明らかに傾いているし、店内の床も壁もすべてがゆがんでいる。 その古すぎる外観から、解体して新しいものを建てたほうが安上がりであろうことは想像に難くない。しかし、崩壊寸前にみえる建物を歴史的景観として壊さないで、さらにチェーンのサンドイッチ屋にしてしまうのが英国人のすごいところだ。地震大国の日本では考えられないことだろう。 ここのサンドイッチは、あまり食べ物のおいしくない英国にあって、比較的まともである。そして、サンドイッチもさることながら、コーヒーが安くておいしい。 星形にココアパウダーを振ってくれるのが嬉しくて、注文していたのはいつもカプチーノ。たまたまベルギー人の友人がこのチェーン店のシステム・エンジニアをしていたので、コーヒーのおいしさの秘密について聞いてみた。 すると、その秘密は豆の量にあるのだという。一般的なコーヒーチェーン店が一杯のコーヒーに使う倍の量の豆を使っているらしい。その話を聞いて、なんだか得した気分になり、コーヒーが飲みたくなるといつもこの店に足が向いたのだった。 パソコンをもち込み、カプチーノを飲みながら、人の話し声をBGMに論文を書く。部屋で書くより筆が乗るのが不思議だ。 飽きてきたり、書くことに行き詰まったりすると、周囲の人びとをウォッチング。「学生さんかな?先生かな? あ、あの人は試験勉強中かも......」なんて考えながらぼんやりしていると、いつの間にか論文のことを忘れて気分転換ができている。するとまた、よい言い回しを思いついたり、新たなひらめきが生まれたりするのである。 ここのよいところは、インターネットが無料で使えること。そして2時間という使用時間の制限があること。わからないことがあればすぐ検索できて便利だし、集中力が持続できるという意味でも2時間はちょうどよいタイミング。それに、コーヒーとサンドイッチであまり長居しすぎるのも申し訳ない。 この喫茶店での論文執筆を始めてから、それまでよりはかなり効率的に文章が書けるようになっていった。