散乱する彫像の残骸、裁かれる元戦闘員 イラクで見たISの断片
シリアやイラクでさまざまな歴史的遺産を破壊した過激派組織「イスラム国」(IS)。奪還作戦が行われたモスルの博物館も例外ではない。大きな穴の開いた館内。散乱する彫像の残骸。バグダッド西方の街では、ISの元戦闘員が小さな部屋で裁かれていた。虚ろな目で宙を見つめる彼らは、一見すると何の変哲もない一般人だった。フォトグラファーの鈴木雄介氏が現地で見たISの断片とは。
博物館入り口はISが開けた穴
ISと激戦が続いた前線地帯。そのほど近いところにモスル博物館はある。ここは首都バグダッドの国立博物館に次ぐ、イラク第二の博物館で、ハトラ、ニネヴェの傑作と称される彫像も収蔵されていた。 しかし、この博物館への入り口は正門ではない。壊れた外壁からこっそりと敷地内へと入っていく。ISとの前線は数ブロック先にスナイパーがいるため、ヘルメットと防弾ベストを着たまま、走って建物の陰から陰へと移動していくのだ。ISが占拠時に博物館の壁に開けた穴から、頭を低くしてくぐり抜けてやっと中に入れた。 2015年の2月の終わり、ISはここに収蔵される数千年前の彫像を倒し粉々にする映像を公開した。その映像の中で、戦闘員の一人は「預言者の命令に従い、偶像を破壊した。私の背後にある遺跡は、かつて人々がアラーの代わりに崇拝した偶像や彫像だ」と主張した。
足元に散乱する彫像の残骸
壁をくぐり抜けてすぐに、かつてここが博物館だったとは信じられない破壊の凄まじさに呆然とした。 床には爆破された壁の残骸だろうか、直径数十センチから1メートルほどの大きな石の塊が転がっている。目の前の床にはトラック一台がすっぽり入ってしまうくらいの大穴が開いていて、鉄骨がむき出しになっている。ここでISが爆発物を爆破させ、地下に収蔵された物たちを運びだそうとしたのだという。 足元に転がる大きな石の塊をいくつも乗り越えてハッとした。何かの残骸だと思って土足で踏みつけてしまったが、よーく見ると動物の足らしき形が掘られていたり、くさび形文字が刻んであるではないか。 無数の大きな石の塊は、モスル博物館の目玉の一つだった紀元前7世紀頃の半人半獣の神獣、ラマス像だった。跡形もなく粉々になってしまっている。辺りを見渡しても、彫像一つ残っておらずガラーンとしている。目に入るのは粉々の石の塊だけ。実はISがモスルを占拠する直前に、多くの収蔵品がバグダッドに移されたという。しかし運び切れなかった物たちは無残にも破壊されてしまった。 いったいどれだけの歴史的遺産がここで破壊されたのだろうか。