散乱する彫像の残骸、裁かれる元戦闘員 イラクで見たISの断片
闇市場に売り飛ばされた?文化遺産
隣の大きな展示室ももぬけの殻だった。この部屋はどことなく見覚えがある。ISがYou Tubeにアップした映像で、色々な彫像を引き倒したり、ハンマーやドリルで破壊していた部屋だ。 床には展示物の詳細が説明された金色のプレートが散乱しているが、肝心の彫像は一つもない。テーブルの上には古代の書物や地図が転がっている。壁に掛けられていたであろう展示物も綺麗に剥ぎ取られている。 ここで不思議に思った。もしISが偶像崇拝は禁止だからと石像たちを破壊したかったのなら、世界にアピールするための映像をささっと撮影して、残りは博物館ごと燃やすなりお得意の方法で爆破して粉々にしてしまえば良いのである。なぜそれをせずに綺麗に物がなくなっているのだろうか。同行した警察軍に聞くと、ISが活動資金にするために闇市場に売り飛ばしたのだという。 自分たちの信じるものに従って、人類史上の遺産を破壊するのも全く賛同しないが、それをあろうことか金に変えるために売り飛ばすとは……。今から数年後にヨーロッパやアメリカの博物館で、ここに収蔵されていた物たちを目にする事になるのだろうか。
海外放送の視聴を禁じたIS
博物館に隣接するメインオフィスのあった建物に移った。ここも博物館と同じような状況で、大方の重要書類などはロッカーごと火を放たれて灰になっていた。 床に散乱した書類の残骸や展示物の細かいパーツ、古い写真がありし日の姿を思い出させる。ある部屋に足を踏み入れると、目の前に巨大なお皿のような物が積み上げられていた。一瞬考えた後、それがパラボナアンテナだと気づいた。ISが住民に海外放送を見るのを禁止し、ここにアンテナを集めて燃やしたのだという。 さらに横の大きな部屋へ進むと、そこにはISの戦闘員が着けていた装備品が散乱していた。あちらこちらに、中のプレートが抜かれた防弾チョッキや、生活用品、食べ物の残りが落ちていて、ついこの間までここにISがいたのだということを生々しく思い出させてくれる。 歴史を破壊し、衛星放送の視聴や携帯電話の使用を禁止したIS。自分たちが都合の良いように宗教の教えを解釈し、己の思想と理想を実現するために様々なことを人々に強いた。アフガンのタリバンもそうだったが、なぜ彼らは殊更に歴史や現代文明を否定するのだろうか。自分たち以外の他者を認め、受け入れる、時代と共に社会における宗教のあり方もうまく変化するべきだと思うが、それを拒否して拗らせるとこのようになってしまうのだろうか。街で出会ったクルド人の警察官の言葉を思い出した。「アラブ人は変化を嫌うのさ」。