散乱する彫像の残骸、裁かれる元戦闘員 イラクで見たISの断片
生気のない目で宙を見つめる
裁判所というと、日本やアメリカのような厳かな雰囲気を想像していたが、室内も普通の民家の一室のようである。木のオフィスデスクに裁判官が座り、周りのソファに判事たちが数人と、ひっきりなしにペンを走らせている書記のような人物が二人。こんな所で本当に裁判が行われるのかと思ったが、ドアが開いて男が引っ立てられてきた。 土と泥で汚れたジャージにスウェット姿。文字どおり死んだ魚のような生気のない濁った目をしている。視線が定まらず、宙を見つめる。呼びかける裁判官の話すら聞こえているのかどうか、まるで夢遊病者のようだ。この男は月に350ドルほどの報酬を受け取りISの戦闘員として活動していたという。前線には各国から集まった外国人の戦闘員が多数いたと彼は証言した。 続けて数人のIS戦闘員が裁かれるのを見た。一人は20歳前後の若い男。残りは中年と初老の男だった。パッと見は一般人と変わらないように見える。
なぜISに加わって戦うのか
何が彼らをIS に加わることを決意させたのだろうか。こればかりは本人たちに聞いてみないと分からない。純粋にイスラミストもいるだろう。口には出さないが、一般市民の中でも彼らの思想に共感する者も少なくない。イラク陸軍特殊部隊のコマンダーは、ISが最後まで立てこもったモスル西部の旧市街地を例に挙げ、それは貧しさや教育が行き届いていないことが理由の一つだと言った。まともな仕事がなく、家族を食わすために加わるのだ。 ヨーロッパや北米の社会の中で、自分の存在理由やアイデンティティを見つけられず、ISが掲げた理想と戦闘の中に、それを見つけようとシリアやイラクに渡る移民の子供たち。アラブ諸国やチェチェン、ロシア、果ては中国から駆けつけるイスラムの義勇兵たち。一口にISと言っても、人それぞれ参加する理由も戦う理由も違うのだ。 現代社会の中で、居場所や生きる意味を見つけられず虚無を感じている者が、戦いの中に存在意義と生きる実感を求めることは少なくない。いくつかの戦場を見てきたが、そう感じることがある。シリア内でISの本拠地ラッカを奪還するための作戦を行っているシリア民主軍(SDF)の中には、イラクやアフガン帰りの欧米諸国の元軍人や一般人もいる。彼らは彼らで、自分たちの信じる大義のために自らの意志で戦っているのだ。 それは例えIS戦闘員であっても、ISを殲滅しようとするグループであっても、同じなのかもしれない。