なぜU-24代表は強豪アルゼンチンにリベンジを果たせたのか?
フル出場した第1戦から一夜明けた27日の練習中に股関節付近の張りを訴えるも、コンディションをしっかりと整えて先発。2つ目のアシストをマークした直後にベンチへ下がった久保も、チーム全員で体現し続けたハードワークが勝因だと試合後に胸を張っている。 「守備は最大の攻撃とよく言われますけど、今日はそういったものを体現できたのかな、と。攻撃への一歩目というか、守備で相手にいいプレーをさせないことで、攻撃にスムーズに入れたと思います」 苛立ちを隠せなかったからか。判定に対して異議を唱え、3点目を奪われる直前にイエローカードを提示されたアルゼンチンのフェルナンド・バティスタ監督は、一気にアグレッシブさを増した日本のプレー強度に「そこが日本の長所だとわかっていた」と断りを入れた上でこう続けた。アルゼンチンは初戦からの先発メンバーの入れ替えを、4人だけにとどめていた。 「1試合目は私たちが上手く日本の長所を消すことができた。48時間や72時間といった間隔をへてプレーすることは日常茶飯事であり、それを言い訳にはしたくはないが、特に前半は私たちがボールをなかなか保持できず、前半の最後にゴールされたことで選手たちの集中力が少し削がれてしまった」 先制ゴールを決めたのは負傷で辞退したMF堂安律(ビーレフェルト)に代わり、東京五輪世代の試合に初招集および初先発した林。右足アウトサイドにかけた正確無比かつ鮮やかな縦パスを通し、アルゼンチンの集中力を奪うゴールをアシストしたのはセンターバックの瀬古だった。 負傷離脱中の前田大然(横浜F・マリノス)や、故障明けの上田綺世(鹿島アントラーズ)と実績をもつ選手たちが集うフォワード陣は、今回はフル代表に招集されている22歳の冨安健洋(ボローニャ)が軸になるセンターバック陣と同じく、五輪本番へ向けて熾烈な競争が待っている。 登録される選手数はワールドカップなどより5人も少ない18人。そのうち2枠はゴールキーパーであり、最大3枠のオーバーエイジがすべてフィールドプレーヤーで適用された場合、1997年1月1日以降生まれの東京五輪世代のフィールドプレーヤーは、わずか13人しか選ばれない計算になる。 食い込むために求められるのは確固たる結果であり、板倉のように一人で複数のポジションでプレーできるユーティリティ性であり、あとは抜きん出た絶対的な実力となる。板倉とともに2戦連続で先発に名前を連ねた久保は、最後の条件となる「抜きん出た――」に近づきつつある。 年齢制限がある五輪で、なおかつ自国開催という一生に一度のビッグチャンス。誰もがヒノキ舞台に立ちたいと望むからこそ競争は熾烈さを増し、アピールにつなげたいと欲するギラギラした思いも好パフォーマンスを生み出した。そして、もうひとつの要素があったと板倉が明かす。 「東京五輪では金メダルを取ること以外考えていないので、アルゼンチンのような強豪相手に勝っていかなければいけない、というところが気持ちに表れたかな、と」 今回と同じ中2日で開催される東京五輪の一次ラウンドで、連敗を喫した瞬間にほぼ敗退が決まる。絶対に負けられない一戦へ臨む、本番でも起こりうる状況がU-24代表全体を奮起させたところへ、最終メンバー入りを争うライバル心、そして板倉や田中に代表される、ヨーロッパやJリーグの舞台で磨きあげられた実力が融合された末に強豪国からもぎ取った会心の白星だった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)