高齢ドライバー問題への誤った印象を払拭するために~問題の本質と対策~【調査情報デジタル】
<機器を用いた運転診断と運転トレーニングの可能性> 富士河口湖町シニアドライバー支援事業で行ってきた脳機能、身体機能などの検査、アンケートおよびトレーニング効果に関して、いくつか興味深い傾向がみえてきた。 まず、ドライビングシミュレーターによる有効視野および危険回避能力の成績は73歳未満の成績が顕著に高く、単年度のトレーニング効果も72歳未満でないと成績向上効果が期待できないことが明らかとなった。これらの結果から、運転能力および(短期的な)運転トレーニングの効果は72~73歳を境に低下していることが確認された。 しかし、複数年にわたる継続的なトレーニングの効果に関して分析してみると、図に示すように80歳以上でもその効果を確認することができ、長期間継続して運転トレーニングを行うことによって、かなり高齢になっても運転技能は向上する可能性があることがわかってきた。 <事故リスク増大の予兆を捉える> 図において6年連続参加者(1名)が6年目に大きくドライビングシミュレーターの成績を下げているのが気になるところである。そこで、この参加者のTMT(=注意・遂行能力を測る脳機能のテスト)の成績変化をみると、5年目から6年目にかけて大きく低下していることが分かった。また、アンケートから5年目まで「なし」が続いていた転倒歴と事故歴が6年目は「有り」に変わっていた。その他、運動頻度も6年目には低下していた。 以上より、脳機能、身体機能、日常行動の変化と事故や転倒のリスクは密接に関係していることが予想される。近年では、スマートフォンやスマートウォッチを用いて心身機能や日常行動のモニタリング、転倒検知も行えるようになってきており、事故リスクの高まっている高齢ドライバーを事前に検知する技術が社会実装される日も近いと思われる。 <個人特性や生活歴と事故リスクの関係性> これまでの研究からドライビングシミュレーターの成績と教育年数(小学校入学以降の学校教育を受けた年数)には有意な相関がみられ、教育年数が少ないことが高齢ドライバーの危険回避能力やトレーニング効果の低下に影響を与えていることもわかってきた。同様にTMTスコアと教育年数にも有意な相関がみられる。実は、教育年数やIQと犯罪率や事故率には世界的に高い相関があることが知られており、高齢ドライバーの運転技能や脳の処理能力にも同様の影響があることが証明された格好になる。