「承認欲求モンスター」が「食レポ」と出会うとどうなるか…エリックサウス総料理長が感じた食語りの“重さ”とは(レビュー)
■間違いなくラーメンが食べたくなる読後感! でも、食後の感想は…
ともあれ、ラーメンの佇まいや味について詳細に語られる本作の描写はあまりにも見事です。作者は密かに実在のラーメン店を営んでいるのでは、と錯覚してしまうほど。だから間違いなくラーメンが食べたくなり、思わずネットで似たようなタイプの――すなわち、複雑かつ精緻で澄み切ったスープの「淡麗系」ラーメンを探してしまいます。 そのレビューを読み込むと、「とてもおいしい」「あっさりしつつコクがある」といったありふれた賛辞が並ぶ中、麺の相性がどうこう、コスパがどうこう、接客がどうこう、といったささやかな不満を大袈裟に書き立てているものも散見されるはず。好みは人それぞれというよりは、誰もが気分次第で褒めることも貶すこともどちらも可能である、ということのような気がしてなりません。 ならば自分はどちらの態度を取るべきか。本作を読んだ後ならば、その選択の重さにも思いを馳せることになるのではないでしょうか。 短編集『あいにくあんたのためじゃない』には、現代における生きづらさをトリッキーに解決していく、アイデアと希望に溢れた物語が並びます。その中で食べ物とそれを語る言葉は、しばしば重要な役割を担います。まこと食べ物とは、希望の光であり、また厄介の種でもありますね。 [レビュアー]稲田俊輔(料理人) 南インド料理専門店「エリックサウス」総料理長。飲料メーカー勤務を経て、友人とともに「円相フードサービス」を設立。和食をはじめ、さまざまなジャンルの飲食店を手掛ける。2011年、東京駅八重洲地下街に「エリックサウス」を開店。著書に『ミニマル料理』(柴田書店)、『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』(西東社)、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)、『おいしいもので できている』(リトルモア)、『キッチンが呼んでる!』(小学館)など多数。2023年7月1日、世界文化社より『「エリックサウス」稲田俊輔のおいしい理由。インドカレーのきほん、完全レシピ』を上梓。 協力:新潮社 新潮社 Book Bang編集部 新潮社
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