吉野家、ダチョウ丼の勝算 河村社長「牛丼依存脱却へ5000羽飼育」
2024年8月、牛丼チェーンの吉野家などを展開する吉野家ホールディングス(HD)がダチョウ関連事業に参入すると発表した。河村泰貴社長に新事業の狙いと既存事業の成長戦略について聞いた。 【関連画像】茨城県の牧場で500羽ほどのダチョウを育てている(写真=吉野家HD提供) ダチョウ関連事業に参入するとの発表は驚きでした。 河村泰貴・吉野家HD社長(以下、河村氏):17年にダチョウの飼育などを手掛けるスピーディア(茨城県石岡市)の前身となる会社を立ち上げました。きっかけは今から25年ぐらい前ですかね。ダチョウというのはあまり日本ではなじみがないと思うんですけれども、ある時食べる機会があって「(味はほとんど)牛肉じゃないか」と思ったんですね。 そのことが記憶に残っていて、環境課題と事業課題の双方を解決するための答えの一つとしてダチョウに注目しました。まず環境課題ですが、調べてみるとダチョウは飼料効率が非常に優れている。単純化すると牛肉が11倍、つまり1キロの肉を増やすのに11キロの餌が必要で、豚肉が6倍、鶏肉は4倍といわれています。それに対して、ダチョウの飼料効率は3倍といわれています。ですから理論上は非常に効率が良く地球環境に優しい畜産だと言えるわけです。 事業課題については、吉野家HDは牛肉の相場に左右され続けてきた歴史があります。1980年、会社更生法の適用申請に至ったのも、原材料の牛肉が調達できなくなったことが原因の一つです。牛肉が調達できない代わりに品質を下げてフリーズドライ肉を使い、味が落ちた一方で価格は高くしました。それではお客さんが逃げますよね、という絵に描いたような倒産劇だったわけです。 そこから2000年ごろまでの復活劇は、牛肉自由化の追い風を存分に受けました。そして現在に至っても牛肉の相場に大きく影響されています。経営者としては何とかして経営を安定させたいと思うわけです。 ●ダチョウは捨てるところがない なぜ牛を自前で飼育しなかったのですか? 河村氏:(肉牛を育てる)自社牧場はつくらないんですか、と言われることもあります。うちが使うものは主に牛のバラ肉の部分です。残りの部位を売りさばけるかというとそれはちょっと難しい。ですから牛肉は結果的に買うしかないんですけど、ダチョウに関しては本当に捨てるところがないんですね。 ただ、ふ化率やひなの生存率の低さなど課題もあります。規模に関しても、今うちの自社牧場は500羽ぐらいで日本有数の水準ですが、500というのは観光農場レベルで産業畜産のレベルには達していません。規模の経済性が全くないわけですよね。生産コストを下げていくためには、追加の投資をして規模の経済性を手に入れる必要があります。 もちろん、赤字の事業に無尽蔵に資金を投下することはできません。そこで、肉以外の部分も副産物として何か収益化できるものはないかといろいろ探してみました。 例えばダチョウの皮を売れないか模索してみたり、サプリメントの開発をしたり、研究を重ねた中で、どうやらダチョウから取れる脂が人間の皮脂と非常に親和性が高く、スキンケア商品を開発できるのではないかということにたどり着きました。しかし、あくまでもダチョウの肉の生産コストを下げるための化粧品事業という位置付けです。 ダチョウ事業ではどのような目標を立てているのですか。 河村氏:まずは継続的なダチョウ事業の黒字化が目標です。具体的な数字についてはご容赦いただきたいのですが、25年2月期の黒字は当然だと思っています。というのは今年、吉野家でダチョウ肉を使用した「オーストリッチ丼」を期間限定で販売しましたので。ですから、来期にしっかりと自分の力で黒字にできるっていうところがまず最低限の目標です。個々のお店にダチョウ肉を卸すほか、吉野家で販売したダチョウ肉のローストビーフを冷凍食品にして販売する予定にしています。 自社牧場の今後の展望は。 河村氏:今、牧場は500羽規模ですが、最低10倍の5000羽規模にしないといけないと考えています。それくらいになってくると規模の経済性で少し生産コストが下がってくると思いますね。そんな簡単なことではないかなとは思いますけど、長期的な視点で見ています。3年、5年(で実現する)と言いたいところではありますけれども、10~20年かかる挑戦だと思っています。