子どもを「水難事故」から守る! 救急医が語る水難事故の重症化を防ぐ方法とは
水難事故で重症化する要因
編集部: 溺れてから「何分以上たつと危ない」という目安はありますか? 志賀先生: 心肺停止から4分以内に心肺蘇生法を開始すれば,救命率は40~50%といわれています。5分を超えると救命率は25%以下となり、救命の可能性が低い状態になってしまいます。 編集部: 水難事故に遭った人は、どのような臓器で問題が起こりやすいのですか? 志賀先生: 一番は肺と脳です。溺水した場合、誤って海水や淡水を飲み込んでしまうため、細菌感染による肺炎や化学性肺炎(肺に有毒な物質が入り込んで起こる肺炎)になりやすいのです。また、溺水により呼吸ができず、脳に必要な酸素が行き渡らないため、低酸素脳症という状態になる場合があります。さらに、冷水に長時間浸かっている事で低体温症になる場合もあります。 編集部: 溺れた人は、病院でどのような治療がおこなわれますか? 志賀先生: 肺炎を発症している場合には抗菌薬を使ったり、酸素と投与したりして呼吸状態の回復を待ちます。重症の場合には気管挿管といって口からチューブを入れて麻酔により眠ってもらいICUに入院して人工呼吸器を用いて集中的な治療をおこなうこともあります。治療は、声かけに対する反応、脈拍の有無、呼吸音などに基づく溺水の重症度分類をもとにおこなわれる事も多いですね。
水難事故の重症化を防ぐための方法とは
編集部: 志賀先生が水難事故に遭い治療された中で、とくに印象深かったエピソードを教えてください。 志賀先生: 特に印象的なのは、沖縄でサンゴ礁がある浅い海に飛び込んで脊髄損傷になった方がいました。ほかには、沖縄で泳いでいたら失神してしまい浮いているところを助けられた人です。この方は溺れていた時間が短く、すぐにCPR(心肺蘇生法)が始められたため、意識が回復し、肺炎を発症した程度で済みました。また、お酒を飲んで川で泳いで溺れた方が、時間が経ってから心肺停止の状態で発見され、助からなかったという出来事もありました。悲嘆した親御さんの鳴き声が非常に心に残っています。 編集部: 溺れている人に遭遇したとき、私たちがまず取るべき行動について教えてください。 志賀先生: 溺れている人を見つけた場合には、むやみに助けに行くのではなく、まずは助けを呼ぶことを考えましょう。ライフジャケットや浮き輪がなく、救助法に慣れていない場合にはペットボトルやTシャツ、ズボンなどを使って簡易の浮き輪をつくる方法もあります。もし海で溺れた場合には、カレント(潮の流れ)に逆らって海岸を目指すのではなく、カレントに従って横に移動していくことを覚えておきましょう。 編集部: 重症化を防ぐために、救出後の対応としてとくに気を付けることはありますか? 志賀先生: 基本的にはABCの順番で対応します。Airway(気道確保)、Breathing(呼吸)、Circulation(循環)の順におこないます。具体的には、まず気道を確保し、呼吸と心臓の動き(脈拍)を確認し、その後心肺蘇生をおこないます。もし心肺停止の状態であれば、すぐに救急車を呼び、CPR(心肺蘇生法)とAEDで対応してください。その後、回復体位(横向きで、上側の手の甲をあごの下に入れ、下あごを軽く前に出して気道確保し、上側の脚を前に出した体位)をとって救急車を待ちましょう。