AI面接旋風 銀行志望者たちの「魔法バトル」開始
【東方新報】就職活動のゴールデンシーズンの中、採用プロセスがAI同士の「魔法バトル」へと変貌している。デジタル化の波が押し寄せる中、多くの業界が効率向上のためAI技術を取り入れており、金融分野も例外ではない。数多くの銀行がハイテク技術を駆使し、AI面接官が次々と登場している。 しかし、AI面接官の普及に伴い、「事前対策」という怪しい現象が密かに広がりつつある。一部の個人はネット上で銀行AI面接の実際の問題を販売し始め、さらに、一部の業者はリアルタイムで面接回答を生成するツールを開発し、応募者に対応策や模範解答を提供している。 コンピューターの向こう側が人間ではないと知った瞬間、「対人恐怖症」の林悦(Lin Yue、仮名)さんは不安に駆られた。彼女は金融学院の修士課程に通う学生で、就職先として目指しているのは深セン市(Shenzhen)の商業銀行だ。この銀行は高額な給与で知られるが、それゆえに毎年募集されるポストは極めて少なく、競争は熾烈だ。厳しい筆記試験を乗り越えた末、彼女はようやく面接通知を受け取った。しかし今回の面接はAI面接官によるものであり、彼女はネット上でAI面接に関する情報を探し始め、対応方法を模索した。 つい最近AI面接を受けた昭昭(Zhao Zhao、仮名)さんは、その経験を「気まずい」の一言で表現する。あるシミュレーション問題では、投資商品の収益が期待を下回ったことで激怒する顧客に対応策を求められた。彼女は一瞬パニックに陥り、回答がつたなくなり、さらに時間配分を誤った。AI面接システムは彼女が回答を完了したと誤判し、次の質問に進んでしまったという。彼女は「事前に回答の流れを把握していれば、こんなに失敗しなかったのに」と振り返る。 このような体験は少なくない。AI面接に対する対策として、ネット上には「独自の模擬問題」や「正解例」と称する教材が出回っている。問題の種類は多岐にわたり、顧客対応、チームワーク、リスク管理、逆境への対応力など、銀行業務に直結するシミュレーションが多く含まれている。 しかし、このような「事前対策」は本来の公平な採用プロセスを歪める可能性が高い。問題を事前に入手し対策を講じた応募者が有利になり、実力のみで挑む他の応募者が不利な立場に立たされてしまうからだ。専門家は、「この現象は銀行の採用基準そのものを揺るがしかねない」と指摘している。 AI面接の裏では、面接対策を支援する「AIツール」まで登場している。例えば、AI面接官の質問をリアルタイムで解析し、自動的に最適な回答を生成するシステムが販売されている。利用料金は時間ごとに設定され、数時間の使用で数千円程度の価格帯だ。 これらのツールは「画面切り替えを検知されない」とアピールし、面接中にAIの質問に対する自動回答を提供する。また、応募者の履歴書を分析し、面接の練習やフィードバックを行うシミュレーション機能も備えている。 しかし、こうしたAI対策ツールの利用は、採用プロセスの公平性を著しく損なう。元々、面接は応募者の知識や応用力、柔軟性を評価する場だが、ツールを使用すれば、表面的な回答が高評価につながる恐れがある。 金融専門家の王紅英(Wang Hongying)氏は、「AI面接が定型化された回答ばかりを評価してしまうと、個性や創造力のある優秀な人材が見逃される危険がある」と述べている。また、AIだけに頼らず、人間の面接官が候補者と直接対話し、総合的に評価する必要性も強調した。 銀行業界では、AI面接が初期選考の効率化に大きく寄与しているが、技術的な限界も存在する。AIは候補者の「人間力」や「ソフトスキル」(コミュニケーション力、表情、態度)を適切に評価することが難しい。また、不安定なネット環境や機材の不具合も評価に影響を与える可能性がある。 専門家は、AI面接官はあくまで効率を高める補助ツールとして活用すべきであり、完全に人間の面接官に取って代わることはできないと述べている。特に、候補者の個性や感情の機微を把握するためには、対面面接が依然として重要だ。 さらに、AI面接ではデータの取り扱いにも注意が必要だ。個人情報保護やプライバシーに関わる問題が指摘されており、今後は関連法規の整備や倫理基準の確立が求められる。 AI面接は効率的な採用手法として注目されているが、完全な代替手段ではなく、人間の判断力や柔軟性と併用することで初めて真価を発揮する。面接プロセスにおける公平性と透明性を維持しながら、AI技術を適切に活用することが、今後の採用活動の鍵となるだろう。(c)東方新報/AFPBB News ※「東方新報」は、1995年に日本で創刊された中国語の新聞です。