動物はいつ動いた? 地球最古動物の“静”のイメージ変える最新研究
静から動:最古動物のイメージの変遷
先週、こうした静なるたたずまいのイメージが定着している最初期のエディアカラン動物群のイメージに、一石を投じるかもしれない興味深い化石研究を目にした。Darroch博士を含む研究チームは、Parvancorina (パルヴァンコリナ)と呼ばれる化石の形態をもとに、コンピューター・シミュレーション、そして流体力学などの手法を用いて生態の復元に迫った。 Darroch SAF, Rahman IA, Gibson B, Racicot RA, Laflamme M (2017) Inference of facultative mobility in the enigmatic Ediacaran organism <em>Parvancorina</em>. Biology Letters 13 (5) パルヴァンコリナのイメージは、以下のサイト(英語)で化石の写真や復元画を見ることができる。(注:こうした研究論文から直接画像などをこの記事の中で借用すること、コピーライトの関係上できないことをご了承いただきたい。一度出版されると基本的にコピーライトは、全て研究者ではなく出版社に属する。) パルヴァンコリナは全体的に平べったく、コインのように丸みを帯びた形をしていた。二種知られているがやや細長い楕円形をしていたものもいた。サイズは直径1cmほどで、ちょうど5円玉の半分くらいだ。体の中心線にそってライン状の突起があり、似たようなものが先端(=頭?)の縁にもあった。ちょうどT字形の構造をしていた。 こうした大まかな形態上の特徴は、古生代の海洋で大繁栄を遂げた「三葉虫」に似ていなくもない。そのためパルヴァンコリナは、節足動物(注:昆虫や三葉虫を含む鎧のような外骨格と多数の体節をもつ動物のグループ)の祖先だった可能性が指摘されている。もしこのアイデアが正しいとすると、このパルヴァンコリナは、三葉虫のように海底を歩いたり泳ぐことができたのかもしれない。 この研究チームは、数値流体力学(Computational fluid dynamics)という特殊な手法を用い、この動物の精巧な模型をもとに、体の流線型と水の粒子の動きをコンピューターなど使って細かく記録した。(注:同じような技術は例えば船の設計など行う時によく用いられる。)結論としてこの動物は、非常に浅い海岸線のような環境で波にのることに適していたそうだ。その際、縦方向(頭から尻)よりも横から横への動きの方が、理にかなっていると推測されている。(シミュレーションの様子は、こちらのイメージを参照:)。 この数値化されたデータに基づく研究だけでなく、エディアカラン紀の地層から(少数だが)いくつか生痕化石も見つかっている。例えば以下のイメージに見られるようなものは、直接生物が移動したことによって残された痕だと考えられている。()。 こうした生痕化石だけでは、具体的にどのような動物種が残したのか特定することは、特にエディアカラン紀において非常に難しい。しかし岩石に残る記録として最古の生痕化石と言って差し支えないだろう。 一連の限られた情報は、どうやら今から6億年くらい前、初期動物の一部はすでに動きまわる術(すべ)を手に入れていようだ。 さてどうして動物は、エディアカラン紀に動き回る必要があったのだろうか? この問いに対する研究は(私の知る限り)今のところほとんど進んでいないようだ。もしかするとエサを求める必要に迫られていたのかもしれない(しかし何を具体的に食べていたのだろうか?)。世界規模での海岸線の後退、潮流の変化など海環境の変化に適応し生き延びるため、止む得なく動き回り出したのだろうか? もしかするとより豊富な餌を求めていたのかもしれない。しかしどのようなデータによって、こうした仮説を検証することができるのだろうか? さらなる研究の成果が待たれる。