動物はいつ動いた? 地球最古動物の“静”のイメージ変える最新研究
最古の動物記録:エディアカラン化石群
それでは最初期の動物とはどのような姿をしていたのだろうか? 現在、世界各地にある約6億年前頃のエディアカラン紀にあたる地層から、多数の化石の存在が知られている。この事実は、初期の動物種が比較的短期間に現れ、すぐに広範囲に適応放散を遂げたことを示しているようだ。 こうした初期の動物化石だが、それ以前の時代の生物のものとは、はっきりと大きく異なる。単細胞生物の化石は、そのほとんどが顕微鏡でも使わない限り見分けられないほど小さなサイズだ。(その中にはただの鉱物の粒や火山灰などと間違って判定されているものもあるかもしれない。)しかし一連の初期の動物化石は非常に大きい。基本的に1―5cmくらいのものが多いが、なんと100cm以上になる化石も知られているそうだ。(注:研究者によってこの巨大なものの判定は意見のわかれるとこらしい。)しかしこれ程のサイズだと、生物化石として、他のもの(特にバクテリア等)となかなか見間違えようがない。多細胞生物さまさまと言えるだろう。 種の多様性も特質に値する。例えば20世紀前半から中頃にかけてはじめて発見された、一連の豊富な化石で有名なオーストラリアの「エディアカランの丘」と呼ばれる化石現場から知られる「エディアカラン化石群」。しかし、現在カナダ北東部やアフリカのナミビア、イギリスなど世界各地にエディアカラン紀の化石現場がいくつか知られている。こうした場所から見つかった初期動物の化石は、(少なく見積もっても)200種以上が今のところ確認されている。体の大きさや形は実にさまざまなので、最初期の動物達はその進化上、すぐに異なるライフ・スタイルを手に入れていたことが推察できる。(こうした種の多様性は下記のBBCのイメージやPaleozooのビデオなどでチェックできる)。 “Ediacaran period”(by BBC) “Ediacaran sea”(by paleozoo) エディアカラン紀の初期動物の化石だが、その全てが版画のプリントのように、岩石に押し付けられてできたような、体の輪郭しか見つからない。殻や骨格のような硬質の部分は(今のところ)ほとんど知られていない。この事実は、最初期の動物種は「軟かい体の組織」だけで構成されていたことを示している。ちなみに最古の(殻のような)外骨格をもつ動物の化石記録は、カンブリア紀初期(約5.35億年前頃)まで待たねばならない。(注:エディアカラン紀最終末頃にいくつか硬質の組織を備えた可能性のある種の存在が最近確認されている。) エディアカラン化石群の初期動物だが、知られている現生動物種の姿と比べてみると、かなり奇妙に映る。木の葉のような形をしたものもいれば、硬貨のように丸く平なものもいる。何重にも細かな線の入っている化石もよく見られる。体の大まかなデザインだけを見てみても、現生動物種からの知識だけでは説明・分類できないものがほとんどだ。スポンジやクラゲの仲間と推定されているものもいくつかいるが、実際どの動物グループに属するか「分類不可能」とされている種は数多くある。 こうした奇妙な体の構造をした ── それでも我々の祖先にあたるグループも含まれているはずだ ── 多くの種がまず初めに登場した。その後何千万年という長い時間を経て、ようやく、より馴染み深い見かけをした動物種が、カンブリア紀中期から後期にかけて、表舞台にその姿を現す。例えば貝、三葉虫、ミミズなどの体つきをした動物達だ。 一連のエディアカラン化石群の初期動物種において、もう一つ重要な事実がある。ほとんどの種は「動き回ることができなかった」と考えられている点だ。海底の岩石などにへばりついて、サンゴやスポンジのようにその一生の大半を定住者として過ごした。当時の遠浅で温暖な海の底は、現在の海環境に見慣れた我々にとって、かなり風変りな様相をしていたはずだ。大きな木の葉のようなものが所狭しと密集し、潮の流れにあわせてゆらゆら揺れている。海底の表面には、1円玉から500円玉の大きさの平たく丸いものがそこら中に散らばっていた。しかし水の中をゆうゆう自適に泳いだり、海底を歩き回るものの、影はまるで見当たらない。 いわゆる「Quiet Oceans(静かなる海)」。地球史を通して海(環境)そのものの姿は大きな変遷を何度も繰り返し、今日に至っているはずだ。この点において生物の占める役割は、非常に大きいと考えていいだろう。例えば新しいプランクトンのグループの進化は、海水の化学成分を過去に大きく変えた可能性がある。サンゴ(礁)の出現は小動物など他の種の多様性に貢献している。大きな捕食者の出現は、やはり生態系に何かしらの変化を与えたはずだ。