名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」
誕生と歴史。映画女優の心を射止めた「サン・トロぺの菓子」
トロペジェンヌが命名されたのは南仏ですが、そのさらなるルーツはポーランドにあるそうです。一体どんな経緯で、ポーランドから南仏に? 島田シェフ 「フランス語で『サン・トロぺの菓子』を意味するこのお菓子は、ポーランド人で菓子職人のアレキサンドル・ミカが考案したものだとされています。ミカはサントロペでパン菓子店を営んでいて、祖母の代から伝わるこのお菓子を名前が付く前から売っていました。 そして、ミカの店に訪れて命名のきっかけを作ったのが、当時まだ無名で、後に人気を博した映画女優のブリジット・バルドーです。お菓子を気に入ったバルドーが提案した『サントロペのタルト=タルト・トロペジェンヌ』と名付け、商標も登録しました。赤いマークが特徴的なミカの店『ラ・タルト・トロペジェンヌ』は今もあり、南仏を中心に多くの店舗を展開しています。トロペジェンヌやクグロフのような酵母を使って生地をゆっくりと発酵させる発酵菓子は、ポーランドから伝わってきたものが多くあります。王家や貴族の婚姻の歴史や、移民などの影響で、ポーランドからフランスへと文化が伝わったのだと思います。日本ではまだ目にする機会が少ないフランス菓子。日ごろからチョコやケーキを食べるという、スイーツ好きの松川さんにその感想を伺うと……。「ブリオッシュ生地はシロップがほどよく染みていて、やさしい甘さを感じます。甘すぎないクリームとのバランスが絶妙です。上品で、甘いものが苦手な人でも食べやすいスイーツだと感じます」パティシエ・シマのトロペジェンヌは、伝統的な形を踏襲しながら、島田シェフが日本の好みにあわせて作った品。お店で販売している、フランス・ナンテール地方の山形パン『ブリオッシュ・ナンテ―ル』にも使われている島田シェフ自慢のとてもリッチなブリオッシュ生地からは、芳醇な発酵バターの香りと卵のコクを強く感じます。クリームはカスタードのうまみが広がる一方で、あわせたマスカルポーネの効果で後味はすっきりさわやか。軽やかに食べ進められて、手が止まらない味わいです。