キリスト教シオニズムがアメリカ政府を後押し 中東問題の基本の基本を要約した好著―船津 靖『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』橋爪 大三郎による書評
アメリカはなぜいつもイスラエルの肩を持つのか。「聖書同盟」のゆえだと著者は言う。ユダヤ国家へのキリスト教徒の片想いのことだ。 アメリカのキリスト教徒(特に福音派)は、聖書に建国物語を読み込む。するとイスラエルが自分たちと重なる。神に選ばれた民/約束の地/救世主の出現と黙示思想/イスラエル・ロビー/ホロコーストへの罪責感。これらが重層してキリスト教シオニズムになる。シオンはエルサレムの別名。ユダヤ人シオニストの何十倍ものキリスト教シオニストがアメリカ政府を後押ししている。 本書は聖書の本文をまず読み、ヨーロッパのユダヤ人迫害、アメリカ建国と聖書のつながり、福音派の台頭、カーター、レーガン以下歴代政権の中東政策の変遷、と順を追って説き進む。すんなり頭に入る。この程度の知識を踏まえない政治家や言論人が多いのはいかに危ういか。 同盟国アメリカの迷走は、キリスト教のリベラル派と福音派の対立のせい。イスラエルをめぐる政治の舞台裏もよくわかる。中東問題の基本の基本が新書で要約された好著だ。 [書き手] 橋爪 大三郎 社会学者。 1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。 著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。近著に『裁判員の教科書』(ミネルヴァ書房)、『はじめての言語ゲーム』(講談社)がある。 [書籍情報]『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』 著者:船津 靖 / 出版社:河出書房新社 / 発売日:2024年06月21日 / ISBN:4309504515 毎日新聞 2024年8月24日掲載
橋爪 大三郎
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