子ども2人を私立小に通わせ、家計が破綻…専業主婦の妻と離婚を決意した大手商社勤め夫の末路
妻の思いから目をそらす夫
話し合いはオンラインにて同席で行われた。太一は落ち着いた様子であったが、マミは明らかに緊張しており、固い表情をしていた。調停人が「この場でどんな話をして、どんなことを取り決めたいか」と双方に尋ねたところ、太一はごく端的に別居中の生活費と離婚について話したいと述べた。 そして次はマミが口を開く番かと思われたが、マミは画面を見つめたまま、一向に口を開かない。調停人は、まだ考えがまとまっていないなら、無理に発言する必要はないけれど、もしよかったら、今頭の中に浮かんでいることや、何か不安があれば教えてほしいと伝えた。 すると、マミは、画面上でもわかるくらい強い視線を太一に向け、太一に訴えかけるように話した。 「気に入らないことがあるからって、私と子どもを捨てて出ていくなんてどういうことなの。私は、あなたが出て行った日から、これからのことが不安すぎてまともに眠れていないのよ。私は別居や離婚なんて話し合いたくない。どうすればあなたが戻ってくるかを話したいわ」 おそらくマミはかなり緊張していたのだろう。ときおり声が上ずりながらではあったが、強い口調で言い切った。マミの表情や声は鬼気迫るものがあったが、一方、太一はそんなマミの視線から目をそらし、マミの気持ちを受け止めないようにしているようであった。
なぜそういう気持ちになったのか
そんな様子を見るにつけ、また、双方の話したい内容も真逆であることからも、調停人は冒頭から前途多難な雰囲気を感じ取った。しかし、ふたりとも、けんかをするためにこの場にいるのではなく、解決したいことがあるからこそADRを利用している。解決の糸口はまだ遠くにあって見えてはいないが、その糸口を一緒に探すのが調停人の役割だ。 調停人は、ふたりの気持ちが違う方向を向いているので、もしまだ十分に話し合えていないのであれば、なぜそういう気持ちになったのかを伝え合ってはどうかと提案した。 二人ともそれには合意できたため、太一から話しはじめた。 「妻とは、子どもの教育費でもめることが増えました。湯水のように子どもたちにお金をかけるので、せめて働いてほしいとお願いしましたが、その気はなかったようです。それでも、私に対する愛情や思いやりが感じられたら頑張れたかもしれません。しかし、妻は、私のことを完全にATMだと思っていたと思います。身体的な接触も嫌がられましたし、会話もほとんどありませんでした。それでも我慢していましたが、いよいよ家に居場所がなくなり、別居を選択しました」 続いてマミの番だ。 「夫の話だけを聞いていると、私は働きもせずにお金だけ消費する金食い虫のような言い方ですが、納得できません。夫が家事育児を手伝ってくれない中、ひとりで頑張ってきました。私は共働きの両親に育てられ、暗い家に帰っていくのが寂しかった。なので、子どもたちには同じ思いはさせたくないんです。それに、いつだったか、共働きのパパ友が疲れ切った姿で保育園の送迎をしている姿を見て、夫は、『俺の奥さんは専業主婦でよかった』と言っていました。私が専業主婦であることで、夫も楽をしていたんです。なのに今さら……」