2017年は“売り”か“買い”か? 「金」投資とはそもそもどういうもの?
2017年は米国では新大統領が就任し、今後、英国の欧州連合(EU)離脱手続きをはじめ、欧州各国の選挙なども予定され、世界にさまざまな変化がもたらされることが予想されます。 「有事の金」と呼ばれる安定資産への投資はそもそもどういうものなのでしょうか? 世界での金資産の考え方や需給によって独特な動きを見せる価格、そして今年の見通しについて、コモディティーインテリジェンスの近藤雅世さんが解説します。
通貨価値の下落と金価格の関係
通貨価値が下落することをインフレという。20年もの長い間デフレと戦ってきた日本では、インフレの感覚を覚えている人は少ないかもしれない。 筆者の祖母は、戦前百圓を積み立てて定期預金にしていたが、終戦後に銀行から引き出したときにはラーメン1杯分の価値だったという。おそらく戦前の百圓は今の百万円相当の価値があったであろう。 また筆者の商社勤務時代に、リュックサックに紙幣を積み込んでジャガイモを買いに行ったという南米駐在員の話を耳にしたことがある。ハイパーインフレはモザンビークやブラジルなどでなかなか根治できない病として長らくその国の経済を蝕んだ。 香港に駐在時には、香港人部下はお金が貯まると銀行で金の延べ棒を買っていた。中国返還前の香港では香港ドルは香港上海銀行が発行する紙幣にすぎなかった。だれも香港ドルの預金で財産を守るという感覚は持っていなかった。現在でも人民元は値崩れしており、中国人は人民元を貯めずにせっせと不動産や金を買っている。現在の中国でも昨年一年間で約5%人民元価値は下がっている。以前は日本で爆買いをしていた中国人観光客もそれだけ日本の製品は高くなり人民元の使いでがなくなったという実感を持っているだろう。 これらはいずれも貨幣価値が下落するときの体験談である。自国通貨に対する信頼が低い国ほど金を購入する傾向がある。 インド人や中国人は自国通貨がいつどれだけ減価するかわからないので、自国通貨で預金をせずに金で貯蓄を行う習慣がついており、花嫁の持参金も現金ではなく金の宝飾品を持って行くことになっている。 昨年12月の米国消費者物価指数(CPI)は前月比+2.1%となり、11月の+1.70%から大きく上昇している。1970年代以来、米国CPIが+2%を超えたのは11回あるが、そのうち1年後に物価上昇率が+4%に上昇したのは2回、+3%を超えたことは4回あった。つまり、インフレ率が+2%を超えると、インフレはその後亢進することが多かった。 2007年の米国金融危機以来、世界各国は景気浮揚のために通貨発行量を増加させている。いわゆる金融緩和だ。不況を克服するために、紙幣をどんどん印刷して景気を拡大させようという意図である。その裏にはとても返済できないほどたまった各国政府の財政赤字をインフレで軽減しようという意図も見え隠れする。一般的に価格は需要と供給で決まる。それは貨幣価値でも同じで、供給をやたらに増やせば、その紙幣の価値は下がる。 インフレの足音が聞こえれば、世界中の多くの人は金を買うだろう。金はインフレヘッジの先兵であるからだ。くだんの祖母は、戦前百圓を銀行預金せずに、金塊を買っていれば、戦後の価格水準でも百万円相当の価値になっていたはずだ。金は通貨の価値の下落を担保する保険である。 そもそも金の投資は、今日明日に必要なお金(かね)を貯めるためのものではない。せっせと積み立てた財産を子々孫々まで残すためのものである。金は腐らない。その証拠に3350年前のツタンカーメンのマスクはいまだに金色に輝いている。これが青銅器や鉄器であれば、錆びて腐っていただろう。