バルセロナOP優勝で見せた錦織の成長力
錦織圭がバルセロナ・オープンで通算5度目のツアー優勝を果たした。この大会と同じ〈ワールドツアー500〉のカテゴリ-での優勝は、一昨年の楽天オープン、昨年のメンフィスに続いて3度目だが、初のクレーコート・タイトル、そして日米以外の地での初タイトルでもある。ラファエル・ナダルをはじめ、ダビド・フェレール、ファビオ・フォニーニというトップ3シードのクレーの強者が誰も準決勝にたどり着かない中、第4シードの錦織だけが逞しく勝ち進んだ。格上と対戦せずにすんだことはラッキーだったともいえるが、あのマイアミ・マスターズの準決勝の棄権からわずか1ケ月の復帰戦で、しかもクレーコートを制したことは驚きだ。球足が遅くラリーが長引くクレーは、肉体的にも精神的にももっとも苛酷といわれるのだから。 格上と当たらなかったとはいえ、準々決勝で対戦したマリン・チリッチも、続くエルネスツ・グルビスも20位台で錦織とはほぼ互角で、一つ年上のチリッチは錦織がまだ果たしていないトップ10入りやグランドスラムでのベスト4入りを21歳で成し遂げた実力者。同じく25歳でサーブとフォアの強打が武器のグルビスも、錦織が未経験の全仏ベスト8入りを19歳のときに果たしたクレー巧者だ。こうした同世代のライバルをまったく危なげなくねじ伏せ、決勝では、やはりクレーが得意で第5シードのニコラス・アルマグロをストレートで破ってきたサンティアゴ・ヒラルドの勢いも、たやすく止めた。 どんな体勢も厭わない攻めの速さでラリーの主導権を握り、アングルもダウンザラインもコースは自由自在。打ち合いになればポイントを取られる気がしない安定感と力強さだった。針の穴を通すようなパッシングショットに、絶妙のドロップショット。錦織らしさが冴え渡った。クレーは大変だから苦手と言っていたこともあるが、もともと10代の頃は「いろんなことができる」という理由でクレーが好きだったのだし、全仏オープン優勝を誇るコーチのマイケル・チャンの的確なアドバイスも効いているのだろう。