バルセロナOP優勝で見せた錦織の成長力
「マイアミで得た自信がこのタイトルにつながった」とも話している。マイアミ……ロジャー・フェデラーも退けてのベスト4入りだったが、そこで脚の付け根を痛めて前王者のノバク・ジョコビッチとの準決勝を棄権。これほどの大舞台を放棄せざるをえなかったのだから、その容態がどれほど深刻だったかは想像に難くない。 フィジカルが課題という指摘は今なお免れないが、この1ケ月のステップからは確かに回復力の向上を見ることができる。今季錦織がよく口にしている「体が強くなった」という実感は、気のせいなどではない。「キツい試合をしても翌日に疲れや痛みが出なくなった」というハードワークの成果は、今回1カ月で完璧な復帰戦を迎えたことにもつながっている。 そしてそれとは別に、この復帰を支えたものに、デビスカップでの経験があるのではないかと思う。マイアミで棄権した翌週、錦織はデビスカップのメンバーからもはずれた。しかし最後までチームにとどまり、サポートをすることでエースとしての責任を可能な限り果たそうとした。治療に専念するだろうと思っていたので、その行動は意外だった。メンバーをはずれてからは一度も記者会見などを行なわなかったが、植田実監督によると、錦織はミーティングのときに「これほど応援に徹したのは初めてだった」と話したそうだ。他の選手の練習のときはコートに入って自らボール拾いもしていたという。植田監督は「そういうところから見えてくるものもあったと思うし、デビスカップでしか得られないこともあったと思う」と言っていた。 会場で見る限り、錦織はコートサイドに姿を現しはしても、ファンからのサインの求めには一切応じることなく、手で「ごめんなさい」の仕草だけして、請われてもマイクを通して言葉を発することもなく、最後まで脇役に徹した。確かに、初めての経験だっただろう。もどかしさと引き替えに、熱い現場を離れなかったことでつなぎ止めた闘志やモティベーションがあったのではないか。