決して博打ではなかった……賛否集まるポーランド戦西野采配の真相に迫る
この状況をピッチ内に伝えるため、相手のコーナーキックでプレーが止まった際に、タッチライン際でアップをしていた長谷部誠が長友佑都に近づき、「コロンビアがセネガルに勝っている。後ろはとにかく失点するな、あとイエローカードに気をつけろ」と耳打ちした。 さらにその後、日本のベンチ前で給水しにきた選手に対して、香川がベンチから駆け寄って、他会場の状況を伝えている。 そして82分、最後の交代カードとして、本田圭佑でも、香川真司でもなく、長谷部がピッチに送り出された――それが、すべてのメッセージだった。指揮官が明かす。 「長谷部には今の状況を伝えました。不用意なファウルは避けさせろ。4-1-4-1である程度ディフェンシブな形でバランスを取って攻めろ。時間を刻むなかでこのままでいいということを伝えろと」 長谷部も「状況が変わったら、すぐに教えてください」と答えてピッチに飛び出していく。 長谷部投入により、日本の戦い方は定まった。一方、ポーランドもこのまま試合が終われば、大会初勝利を挙げられるため、無理にボールを奪いにいく必要はない。こうして、前代未聞の他力に委ねる日本の時間稼ぎが始まった。 あとは、コロンビアがそのまま1-0で勝つことを願うだけ――。 記者席でも、目の前の試合より、他会場の途中経過を伝える手元のスマホが気になって仕方ない。スタジアムは次第に大ブーイングに包まれていく。 アディショナルタイムが3分に達した頃、試合は予定調和のままタイムアップを迎えた。それから1分ほど経った頃だろうか。記者席のテレビ画面にはコロンビアの選手たちが喜び、セネガルの選手たちが崩れ落ちるシーンが映し出された。 こうして日本代表は、決勝トーナメント進出というミッションを成し遂げたのだ。 もっとも、試合後の会見で西野監督が見せた表情は、2大会ぶり3度目の偉業を成し遂げた指揮官とは思えないものだった。笑顔はなく、やや憔悴した様子――それは、いかに難しい決断だったかをうかがわせた。 「非常に厳しい選択。『万が一』の可能性はピッチ上でも考えられたし、他会場でも『万が一』があるわけで。選択をしたのは、そのままの状態をキープすること。このピッチ上で『万が一』が起こらない状況。間違いなく他力の選択をしたということ。負けている状態をキープしている自分、チームに納得いかない。ただ、選手たちはそれを全うしてくれた。いかなるブーイングにも負けずに状況をキープした。私のメッセージを忠実に遂行してくれた。あの状況を作ったのは選手ではなく、ベンチワークだった」