江口洋介・主演、蒔田彩珠・出演「誰かがこの町で」至るところに“同調圧力”あり?! コロナ禍の胸糞悪い記憶を想起させるサスペンス 原作に忠実なドラマ版と、輪をかけておぞましい原作を解説!
■原作に極めて忠実なドラマ化、でもここが変わってる!
結論から言うと、ドラマは極めて原作に忠実だ。ふたつのパートの時代を最初から明記していることや地名を変えていることなどの違いこそあれ、それ以外は、物語の展開も登場人物の相関図も、はてはセリフまで、きっちり原作の通りに進む。 だがそれでも「あ、ここ変えたんだ」と思った箇所がふたつあった。ひとつは終盤で(本放送はまだ第3回だけど、オンデマンドで最終回まで観て書いてます)、〈犯人〉が証拠を隠滅しようとする場面が追加されていたこと。ここは原作を読んだとき、「そんなこと話しちゃったら証拠を隠されちゃうのでは?」と思った場所だったので、なるほど納得の改変だ。ドラマのクライマックスとしても、盛り上がる演出だった。 もうひとつは主人公、真崎の前歴だ。原作では彼は自動車メーカーに勤務しており、リコール隠しに加担したという過去を持つ。一方ドラマでは、真崎の前職は政治家の秘書。二重帳簿、つまり裏金作りに手を染めたというふうに変えられていた。話の筋をすっきりさせつつ原作のテーマにちゃんと沿った、いい改変だと思った。ただ原作の「会社」という身近な例の方が身につまされたけども。何がって? それがこの話のテーマだ。 この話のテーマはずばり、同調圧力である。犯罪のない安全で安心な町を作るために、価値観の合わない人を排除していく町民たち。これは間違っているとわかっていても、逆らえば自分が排斥される。仕方なく思いとは別の行動をとってしまううちに、それがいつの間にか当たり前になっていく。むしろ正しいことをしているとすら感じ始める。その恐ろしさ。ニュータウンはそれが暴走した例なのだが、その町だけが異常なのではなく、身の周り至るところに同調圧力があるという例を原作者は丹念に綴っていく。 いやもうその描写が辛い──いや違う、胸糞が悪い、というのが正しい。自分たちだけの評価軸で他者を裁き、陰湿にいじめて追い出す、それが「正義」だと信じる人たち。好きな俳優さんが演じれば少しは胸糞悪さが減るかと思ったが、逆だった。尾美としのりさん、あなたそんな人じゃないでしょもっとイイ人でしょ、宮川一朗太さん、「光る君へ」でのぼんやりした右大臣に戻って、と何度も画面に向かって訴えてしまったよ。上手い作家が胸糞悪い話を書くとホントに胸糞悪くなるし、上手い俳優が胸糞悪い芝居をするとマジで胸糞悪くなるんだと実感した。糞糞書いてすみません。
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