江口洋介・主演、蒔田彩珠・出演「誰かがこの町で」至るところに“同調圧力”あり?! コロナ禍の胸糞悪い記憶を想起させるサスペンス 原作に忠実なドラマ版と、輪をかけておぞましい原作を解説!
推しが演じるあの役は、原作ではどんなふうに描かれてる? ドラマや映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は同調圧力の怖さに震えるこのドラマだ! 【ドラマ「誰かがこの町で」】江口洋介主演、忖度と同調圧力の恐怖を描いた衝撃の社会派ミステリー
■江口洋介・主演、蒔田彩珠・出演! 「誰かがこの町で」(WOWOW・2024)
原作は佐野広実の同名小説『誰かがこの町で』(講談社文庫)。2020年に『わたしが消える』で江戸川乱歩賞を受賞した著者の、受賞後第1作として刊行された。 弁護士事務所を営む岩田喜久子のもとを、望月麻希と名乗る若い女性が訪ねてきた。岩田の親友で19年前に失踪した望月良子の娘だという。家族がどうなったのか知りたいという麻希に、はたして本当に良子の娘なのか確信の持てない岩田は、調査員の真崎に彼女の背景を調べるよう命じる。 真崎が調べた結果、麻希は良子の娘に間違いなく、19年前に児童養護施設に連れてこられたことが判明。その時、麻希とともに預けられた書類には、「本人の身に危険が及ぶ可能性があるため、取り扱いに注意すること」という一文とともに岩田の連絡先が貼られていた。いったい19年前に何があったのか。真崎は当時良子が住んでいた町へと向かったが……。 という筋と並行して描かれる、もうひとつの物語がある。埼玉県北部のニュータウンで起きた6歳の子どもの誘拐殺害事件だ。木本家の一人息子である貴之が遺体で発見され、町民たちは町外れの団地に住む外国人のしわざに違いないといきり立つ。だが結局、事件は迷宮入り。そんな中、貴之の母・千春は違和感を覚えていた。この町の人々の防犯意識はちょっと異常ではないか? というのが原作・ドラマの両方に共通する導入部だが、ここでちょっと困っている。この物語は、原作・ドラマともに真崎が過去の事件を調べるパートと、そのニュータウンでの幼児誘拐殺害事件とその後の出来事が並行して描かれるのだが……うーん。まあ、仕掛けやトリックにかかわるところではないのでいいかな。もしドラマを未見で、どんな些細なことも知らずに小説を読みたい、という人はここから先は読まないでください。 ということで明かしてしまうと、ニュータウンのパートは約20年前が舞台なのだ。つまり過去と現代、ふたつの時勢を行き来する構成になっているのである。ドラマは最初から2001年、2024年とテロップを出して進むが、原作でそれがわかるのは第2章の途中。それもきわめてさりげなく、登場人物の年齢の描写で伝わるようになっている。そして3章になって赤ん坊の麻希が登場し、読者はそこで初めて「あ、そういうことなの?」と状況を把握するわけだ。些細なことではあるが、気づいた瞬間の「そういうことか」という小さなカタルシスも小説を読む楽しみのひとつなので、ちょっと回りくどい説明をさせてもらった。
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