エネルギー小国日本の選択(14) ── 原発事故の被害と高まる反原発論
除染などにより屋外で計測される放射線量は徐々に下がってきているが、放射能による健康への影響は依然不透明で不確かだ。特に、子どもの甲状腺がんの発症リスクを心配する声は強い。一般に、放射線により遺伝子が傷付けられ、その状態のまま細胞分裂が続くと、異常な細胞、つまり「がん細胞」が出現するとされる。 広島、長崎両県の原爆の被爆者を対象とした60年超の継続的な健康調査などから、100mSv(ミリシーベルト)以上被ばくすると、がんによる死亡率が上昇するとの科学的予測がある。ただ、「チェルノブイリや福島の原発事故のように低線量で長期間被ばくした場合、どうなるかという点についてはまだわかっていないことも多い」(日本臨床検査薬協会)。 健康被害をめぐっては今年8月にも、アメリカの居住者らが被ばくしたとして東電を提訴した。福島第1原発事故の後、アメリカの空母に乗り組んで事態の収拾に当たった「トモダチ作戦」に参加した際、東電側の管理不徹底のために被ばくしたと主張。治療などに充てる50億ドル(約5500億円)基金創設などを求めている。原発事故の問題は尾を引き、賠償などの費用は兆円単位で膨らんでいる。
大荒れの様相を呈した東電の株主総会
2011年の東電の株主総会は6時間に及ぶ大荒れの様相だった。「(経営陣は)全員クビだ!」といった厳しい声が飛んだ。 東電に限らず原発を持つ電力各社は厳しい立場に立たされた。その状況は今も変わらない。毎年、再生可能エネルギーへの転換や廃炉といった、脱原発の株主提案が相次いでいる。いずれも否決されているが、経営側はそうした株主らに神経を尖らせている。 ほとんどの原発が止まる中、電力各社は火力発電所を多く使わざるを得ず、液化天然ガス(LNG)などの火力燃料費が急増した。収益を圧迫し、1000億円単位の赤字を計上する決算期もあった。安定配当が人気だった電力会社が無配となり、株主の怒りを増長させた側面もある。 同じ2011年には、九州電力玄海原発(佐賀県)の再稼働に関する県民向け説明会の際、九電が社員らに再稼働を支持する意見や質問を送るよう求めていたことが発覚。電力業界全体に強い不信と不満が募っていった。