チタンを月から輸送する!? 未来のエネルギーと資源供給を担う月探査計画の実現可能性
月が新たなチタンの採掘場となる可能性はあるのでしょうか? スウェーデンのウプサラ大学の研究グループは、月でチタンを採掘し地球へと輸送するシナリオを数学モデルを援用して描き出し、その結果を論文で公表しました。 月面の砂「レゴリス」から酸素を取り出す技術、ESAが研究中
100年未満の歴史しかないチタンの利活用
チタンが発見されたのは18世紀末ですが、1940年代にルクセンブルクの冶金学者ウィルヘルム・クロールが精錬技術を開発してから本格的に利用されるようになりました。チタンは高い比強度(※)、耐食性、耐熱性を備えています。そのため、航空エンジンや航空機の機体など航空分野で広く使用されており、全世界で製造に使用されるチタンの約60%がこの分野に割り当てられるのだといいます。しかし、チタンの原料であるイルメナイト鉱(FeTiO3)の生産は、オーストラリア、中国、南アフリカなど限られた地域でしか行われておらず、新たな採掘場が求められています。その有力候補のひとつが月であり、月にはイルメナイト鉱が豊富に存在すると期待されています。 ※…材料が破壊するまでに要した張力でもって材料の強度を表し(引張強度)、その強度を密度で割ったもの。機械的強度の指標として用いられる。 月の資源開発は1960年代から検討されています。1969年にアメリカ航空宇宙局(NASA)のアポロ11号が月面に到達した際、月の微粉の中にチタンが含まれていることが確認され、1972年のアポロ17号では高濃度のチタンを含む玄武岩が持ち帰られました。
月の資源活用のメリットとしては、原材料供給の革命が挙げられます。再生可能エネルギーの需要が世界的に増加しているため、鉱物資源の需要も急増しています。2010年以降、リチウムやニッケルといった鉱物資源の需要は世界全体で50%以上増加しているものの、生産量の多いチリ、インドネシア、コンゴ民主共和国等の国では採掘や精製プロセスが貧弱で、環境破壊につながっているといいます。こうした背景から、欧州連合(EU)では2024年に施行された重要原材料法により、輸入依存を減らし国内での鉱物資源の増産を求めているものの、鉱物資源を掘り尽くすことは環境問題を将来に先送りしているに過ぎないと、研究グループは主張しています。月の資源活用は、こうした環境問題を解決する新たな採掘ルートになるとしています。 研究グループがチタンを採掘資源のケーススタディとしたのは、その化学的特性と多岐にわたる用途が理由のようです。チタンは、太陽電池をはじめとするナノテクノロジーに利用されるだけでなく、顔料にも使用される二酸化チタン(TiO2)は無害かつ優れた耐熱性を持つため、医療機器や生体インプラントにも使用されている模様です。