チタンを月から輸送する!? 未来のエネルギーと資源供給を担う月探査計画の実現可能性
世界最大級のイルメナイト鉱床の約3分の2の採掘が可能
研究グループは、月面の「静かの海(Mare Tranquillitatis)」を採掘場として想定しました。この地域はレゴリス中に10%未満のイルメナイトを含むことが確認されており、さらにリモートセンシングによって高濃度のイルメナイトを含む玄武岩が存在する可能性が示唆されています。同グループは、チタンの堆積量を評価するため、アポロ17号が持ち帰ったレゴリス(約3%のイルメナイト含有率)と玄武岩(約15%のイルメナイト含有率)を参考にしました。この情報をもとに、世界で最も重要なイルメナイト鉱床のひとつであるノルウェーのTellnes鉱山の採掘量の推移と照らし合わせた結果、年間約50万トンのイルメナイト鉱が採掘可能で、Tellnes鉱山の約3分の2に相当する量であると推計されています。 採掘には数百トン単位の大型掘削機や大型ダンプトラック6台が必要で、電力供給には約11メガワットが必要とされます。こうした電力は、太陽エネルギーと小型原子力発電所で賄うことができる模様です。
月からチタンを採掘する上で立ちはだかるいくつものハードル
しかしながら、研究成果を報じたUniverse Todayによれば、鉱山の規模拡大には20年かかるため、その間の採掘量は1年あたり50万トンに達しない可能性が高いとのことです。また、チタン採掘に必要とされるインフラ建設のために、国際宇宙ステーション(ISS)の建設に使用されたのと同量の資材(約2500トン)を月に輸送する必要があるものの、インドが2023年8月に月に着陸させたチャンドラヤーン3号のミッションだけでも9000万米ドルものコストがかかることからもわかるように、法外なコストに挑戦しなければならない模様です。さらに、インフラ建設で遅延が発生するとコストがさらに増大することや1972年以降に人類が月に到達していないことなど、リスクの高さが指摘されています。このような課題があるため、チタン精製の副産物として酸素が得られるメリットがあるものの、現段階では実現可能性が低いとの見解を提示しています。 Source Merle, R., Höök, M., et al. - Assessing the plausibility of mining lunar titanium (European Geologist) Universe Today - How Accessible is Titanium On The Moon? 伊藤 喜昌 - チタン製造技術の系統化(技術の系統化調査報告) NASA - APOLLO 12 LUNAR-SAMPLE INFORMATION アメリカ地質調査所 - TITANIUM MINERAL CONCENTRATES Bhat, B. N. - Aerospace Materials Characteristics Yang, J., Liu, C., et al. - The progress in titanium alloys used as biomedical implants: From the view of reactive oxygen species NASA - NASA’s Fission Surface Power Project Energizes Lunar Exploration
sorae編集部