早明戦の「魔物」に飲み込まれかかった早稲田が明治に競り勝てた理由【大学ラグビー】
関東大学ラグビー対抗戦Aグループの早稲田大学と明治大学の一戦が12月1日に行われ、早稲田大が27-24で勝利した。今シーズンで100回目を数える伝統の一戦の通算の対戦成績は早稲田56勝、明治42勝、二つの引き分けとなった。早稲田はこの試合の勝利で6季ぶり24回目の優勝を飾り、明治は3位となった。 1987年の「雪の早明戦」を始めとして、数々の名勝負が繰り広げられたこの対戦、節目の100回目となる今シーズンの対戦は歴史に刻まれるに相応しい、手に汗握る熱戦となった。 戦前は早稲田有利の予想が多かった。安定したセットプレーのみならず第3列以上の豊富な運動量でチームを引っ張る、主将でHOの佐藤健次と、縦横無尽なランで相手ディフェンスを切り裂くFB矢崎由高の日本代表組に加え、トライを量産しているWTB田中健想、距離が長く正確なキックで、シーズン後半に急成長を見せSOに定着した服部亮太などのタレントがそろった布陣は大学レベルではずば抜けて魅力的だ。このタレントたちにブレイクダウンを制し続け、安定してボールを提供し続けるFWたちがうまく絡み、4連覇を目指した帝京大を48-17の大差で破った。 一方の明治にもCTB秋濱悠太、WTB海老澤琥珀という日本代表スコッド入りした有力選手がいるが、帝京大との対戦では、早稲田とは対照的に「重戦車軍団」と呼ばれるFWがブレイクダウンの攻防で後手に回り、モールでもセットプレーでも苦戦して、28-48と大敗を喫した。 しかし、早明戦は事前の予想が当てにならないことが多い。不利を伝えられたチームが予想を覆して勝利した例も数多ある。近年は帝京の強さが目立ち、相対的に注目度は下がってしまったものの、早明両学にとって早明戦は独特の雰囲気を持つ一戦なのだ。ましてや今シーズンは久々に優勝の行方に直接関わる一戦となったため、両チームの選手の闘志が嫌が上にも高まった状態でキックオフ。 試合開始直後は、明治が優勢だった。敵陣深く攻め込んで、重戦車軍団が密集近辺での突進を繰り返して早稲田を防戦一方に追い込んだ。ところが、先制点を挙げたのは早稲田。相手ミスから敵陣に一気に攻め込み、最後は左隅に佐藤選手がトライ。劣勢に追い込まれながらも、ブレイクダウンで切り返し、一気に奪ったトライは味方の士気を大いにあげるとともに、敵の意識を萎えさせる。 早稲田としては「してやったり」のトライだったが、明治は萎えるどころか、ここから重戦車の威力を存分に発揮した。前半18分、28分と連続してラインアウトからのモールでトライを奪ったのだ。 まっすぐ前に出るモールで早稲田FWを真っ向から粉砕したこの2本のトライは、早稲田を浮き足立たせた。明治ディフェンスから強烈なプレッシャーを受け続け、服部のキックは精度を欠き、十分に失地の挽回ができなかった。パスも乱れて、ノックオンなどの反則にこそならなかったが、攻撃がブツ切れになった。そんな中でも、明治にそれ以上の得点を許さず、逆に前半終了直前に密集近辺を田中健想が鋭くついてトライを奪ったのは、早稲田の底力のなせる業だろう。前半は12-10と早稲田リードで終了。 後半11分明治は秋濱のトライ(ゴール成功)17-12と逆転し、この試合2度目のリードを奪う。ただ、この辺りから常に強力なプレッシャーをかけ続けてきた明治FWにやや疲れが見えるようになり、早稲田の攻撃がうまく回り出す。17分に佐藤がこの日2本目のトライを奪って同点に追いつくと、21分にはライン参加した佐藤のゴロパントから連続してボールをつなぎ、最後は矢崎がトライを奪って勝ち越し(ゴール成功)。さらに23分にはCTB野中健吾がPGを決めて27-17と点差を広げた。 だがこの日の明治は諦めなかった。終了間際の38分に途中出場のNo.8藤井達哉がトライを奪い、ゴールも決まって24-27と1トライで逆転というところまで食い下がる。 ロスタイムに入ってからも明治は攻め続けたが、最後はWTB海老澤がタッチに押し出されてノーサイド。早稲田の選手の歓喜の表情がこの試合の苦戦を物語っていた。観る側にとっても久々に「日本には早明戦がある」という実感を持つこのできた熱戦だった。 両学はこの後行われる大学選手権決勝でで相まみえる可能性も残っている。対抗戦では勝利したチームが大学選手権では敗れるというケースも、両学の対戦の歴史の中では何度もあった。両学の再戦なるか。そしてその場合は勝利の女神はどちらに微笑むのか。今回の対戦は最終的にはミスの多寡で決まったという側面もあったので、両チームがより隙のないチームに成長した上での再戦を是非見てみたい。 [文:江良与一]