N-VAN e:の開発コンセプトは「移動蓄電コンテナ」 どこがイイのかスゴいのか?
メカ的な成り立ちはどうなってる?
N-VAN e:の開発コンセプトは「移動蓄電コンテナ」だ。横文字で表現すると「e:CONTAINER(イー・コンテナ)」となる。平たく表現すると、環境にやさしく(早朝深夜も静かに配送/屋内や地下でも使える)、どこでも給電(停車中もエアコン使用可/さまざまな電動器具を利用可)できて、自在に使える(大空間/大開口/動く店舗・部屋として使える)クルマということだ。 N-VAN e:のメカ的な成り立ちを乱暴に表現すると、N-VANのエンジン、トランスミッションが積んであるフロントのスペースに最高出力39kW(53ps)(e:G/e:L2)もしくは47kW(64ps)(e:L4/e:FUN)、最大トルク162Nm(全タイプ)を発生するモーターやインバーターなどのパワーユニット系コンポーネントを搭載し、フロアセンター部の燃料タンクをバッテリーに置き換えた格好だ。 開発にあたっては、車体寸法と骨格を変えず、既存のフロントルームにパワーユニットを収めることが大命題だった。バッテリーも同様で、シートをダイブダウンした際にフラットになることが絶対条件だった。N-VANの使い勝手を犠牲にすることを許さなかったのである。 では、バッテリーの容量はスペースの制約から決まったのかというとそうではなく、航続距離から逆算して決めた。N-VAN e:のバッテリー容量は29.6kWhである。WLTCモードの一充電走行距離は245kmだ。競合車に対し優位な航続距離を実現しているが、「245」という数字が欲しかったわけではない。 重視したのは実用航続距離だ。それもストップ&ゴーが多く、減速時のエネルギー回生を多く期待できない集配業務で一日使ったときの実用航続距離である。検証の結果、100km走ればストレスなく一日の業務を遂行できるとのデータが得られ、そこからバッテリー容量を導き出した。しかし、スペースは決まっており、薄く、コンパクトに成立させなければならない。厳しい衝突要件も満たしつつ。 パウチ型のセルを採用したのは、体積エネルギー効率を高めるためだ。バッテリーパック内は水配管を張り巡らし、高温時はバッテリーを冷却。低温時は空調用ヒーターでバッテリーを加温して適正な温度まで暖め、バッテリーにとって効率のいい温度にし、航続距離の向上を図る。このようにN-VAN e:はとことん、仕事で使うクルマとしての機能を重視して開発されている。 ただし、機能一辺倒ではなく、しゃれっ気もある。e:L4とe:FUNの内装パネルはコンテナの外観から発想した縦ビードのデザインを採用。強度アップと軽量化を実現しながら、付いた傷が目立ちにくいという実用上のメリットも兼ね備えている。 充電リッドがあるフロントグリルに廃棄バンパーを再生したサステナブル素材を採用したのは、面白い試みだ。元になっているのは、ホンダの販売店で回収したホンダ車のバンパーである(言ってみれば、歴代ホンダ車の生まれ変わりだ)。リサイクル時に残ってしまうキラキラした塗膜の粒は意匠として活用。リサイクルマークを見える位置に配し、「積極的に見せるリサイクル材」としている。 手道具や工具は機能を追求するうちに研ぎ澄まされ、狙ったわけでもなく人を惹きつける魅力を備えることがある。軽商用EVに求められる機能を綿密に分析し、合理的な考え方で成立させたN-VAN e:は、そんな道具・工具と同じ種類に属するように感じられる。
世良耕太