GPIF改革10年、「脱・国内債」の分散投資で果実-累積収益120兆円超
三谷氏は「政権側から株式比率を高めるべきじゃないかとの見方が強まっていた」と話す一方、「ただそれは、国内債の比率を下げたかったこちらの思惑とも実は一致していた」と明かした。
ファンド運営会社Fiducia(フィデューシア)の創業パートナーで、運用改革の際に厚労省からGPIF調査室長として出向していた清水時彦氏は、「アベノミクスの目的はデット(借り入れ)からエクイティー(株式)中心のマネーフローに切り替えることだと理解していたし、その戦略は正しいと感じていた」と話す。
アベノミクスの3本目の矢は、民間投資を喚起し続けるというもの。運用改革によって株式投資の比率が高まれば、成長のための巨額資金が企業に向かうことを意味した。
GPIFは14年10月31日、国内債比率を60%から35%に引き下げるという市場予測を超える資産構成の見直しを発表した。国内外の株式比率の倍増とともに国際分散投資の色彩を強める内容だった。
現在は国内外の債券と株式にそれぞれ25%を等分に振り分ける資産構成で運用を行っている。改革以降、兆円単位の運用赤字を計上した年もあったが、過去10年間の累積収益額は円安・株高の追い風を受ける形で121兆4848億円となった。これは自主運用を始めた01年から運用改革までの13年間で稼いだ約41兆円の3倍近くに当たる規模だ。
年金運用に詳しい大和総研の菅野泰夫主席研究員は「巨額のリターンにつながったのは結果論の側面もあるが、特に外国株式の比率を増加させた点などは評価できるし、総じて投資判断としては良かった」と語った。
投資環境の変化
運用資産額は10年前のほぼ倍となる約255兆円まで増え、世界最大級の年金基金としての存在感はいっそう高まった。一方で取り巻く環境も大きな変化を遂げた。
GPIFは個別銘柄の選択が禁じられているほか、年金加入者の利益以外を追求してはいけない「他事考慮の禁止」といった制約がある。