戦前結婚の悲劇を忘れた愛子さまと旧皇族「縁組」案 成城大教授・森暢平
旧皇族がバイセクシュアルでも構わないし、それを好奇の目で見るのも間違っている。夫の性的指向をアウティングした手記は今のスタンダードでは容認されないだろう。ただ事実として、この暴露は反響を呼んだ。そして、旧満州での春仁の相手のひとりが、当番兵で春仁のお気に入りであった西口である。 戦後、宮内省から切り離された閑院家は、家を切り盛りするために、郷里に戻った西口を呼び出し、小田原の敷地内に住まわせた。西口は次第に、閑院家の実権を握っていく。 ◇「すぐに離婚なさるべき」助言を胸に家を飛び出す 西口に殴られた3日後、直子は高橋に相談し、すべてを告白した。高橋はこう言った。「率直にいって、何もかもただ唖然とするばかりです。(略)ご夫婦だけの問題ならともかく、西口が加わったそういう状態というものは、人間じゃありませんね」「すぐに離婚なさるべきです。その後のことは私がご相談に乗りましょう」(『婦人倶楽部』61年4月号)。率直な助言に直子の心は動き、56年9月29日、家を飛び出す。親類宅を転々としたあと、千葉市にあった高橋の元に身を寄せた。 直子はその後、東京家庭裁判所に離婚調停を申し立てる。6年間の泥沼の裁判はときにメディアの耳目を集めた。春仁は頑として離婚を拒否するが、結局、財産分与として400万円を渡し、協議離婚となった。 66年、離婚の手続きがなされ、間もなく直子は高橋と再婚した。直子は91(平成3)年、82歳で亡くなる。皇族華族の階層内結婚の犠牲になった直子は後半生で初めて本当の幸せを知った。 こんな悲劇を今の女性皇族に味わわせるわけにはいかない。内親王と元皇族との縁組を、という基本的人権を無視した主張が公然となされるのは、どう考えてもおかしい。 (以下次号) ■もり・ようへい 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など
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